大人が学ぶ 子どもが自分も相手も大切にできる性教育(6) 文・一般社団法人ソウレッジ代表 鶴田七瀬

画・一般社団法人ソウレッジ

『幼い頃から性教育を』

性教育をスタートするのは、早ければ早い方がいいと思います。小学生になって生理が始まったら話そう、や、性行為を行うような年齢になったら話そうでは遅いのです。性教育は遅くとも5歳までに始めることを、ユネスコの国際セクシュアリティ教育ガイダンスでは推奨しています。

大人の皆さんに想像をしてみてほしいのですが、自分が思春期真っただ中の頃、親にいきなり性にまつわる話をされたら、戸惑いませんか? 今まで触れられなかった話題の受け止め方に困ってしまう人が多いはずです。より早い時期、そして親の話を素直に聞くことのできる幼少期から、性に関する話をされていたら、多感な時期でも多少は抵抗感なく聞くことができるのではないでしょうか?

私は幼い頃、祖父母の家で飼っていた犬が生理になった時に、「どうして血が出ているの?」と祖母に聞いたら「お母さんに聞いて」と言われ、母に聞くと生理に関する本を渡されました。当時は難しくてよく分からなかったのですが、はぐらかさずに対応してくれたことで、その後成長して、生理に関して親と話すことには抵抗がありませんでした。

また、幼い子どもが性被害に遭っていることも早期からの教育が必要とされる理由の一つです。性知識がないと、自分がされていることの異常性を認識できません。月日が経ち、あれは性犯罪だったんだ、もしかしたら妊娠していたかもしれない……と思い、人間不信になったり、うつ病になったりする人がいます。被害に遭う事態を予測して、避けられれば一番いいのですが、万が一被害に遭ってしまった時も性に対する知識を持っていれば、すぐにケアを受けることができて、何もせずに時間が経つのを防ぐことができます。

さらに、性に関する誤った認識や知識不足のために、性暴力などの加害者になってしまうこともあります。悪意がないのに加害者になってしまった……そんな状況を招かないためにも、性教育は不可欠なのです。

そして、なかなか想像しにくいと思いますが、子どもが「自分は愛されている」と実感できる触れ合いも性教育につながります。なぜならば、過去の“愛され体験”は子どもの自己肯定感に大きく影響するからです。

私たちの団体では、「知識を得る」だけではなく、「得た知識によって行動が変わっていく」ところまでをサポートすることを性教育と考えています。ですが、そもそも自己肯定感が低いと、性知識があっても行動への影響力は弱くなってしまうのです。

後先考えずに臨むようなリスクの高い性行為をしている人に、「もしかしたら、妊娠してしまうかもしれないんだよ。きちんと考えなきゃ」と言うと、「そんなのどうでもいい」という言葉が返ってくることがあります。

または、彼氏から性的なことを求められた際、避妊をしてくれなくても、求められることがうれしいから断れないという人もいます。

妊娠してしまったら学校を辞めなきゃいけないのに、自分たちで育てられるお金もなく困窮してしまうのに、どうして回避しようとしないのか。それは、「自分の存在価値」や「自分への肯定感」を得られていないからです。満たされたい思いが優先されてしまうのです。

このような人たちに、「自分のことを大切にしないと」と言っても響かない。周囲の大人が「私はあなたのことを愛しているよ」というメッセージを過去にどれだけ伝えられてきたかがカギになるのです。自分を大切に思えてこそ、彼氏が避妊をしてくれなかったり、無理な性的要求をされたりするような場合に「自分の身体を大事にして。彼氏の要求を断っても大丈夫。そんな彼氏にあなたの人生を左右されるなんて、あなたがもったいないわ」という周りの人からの言葉に応じることができるのです。

幼年期から育まれた自己肯定感が、親の手が届かないところでも子どもを守る力になります。

単純に避妊の方法のような性知識を与えるだけでは行動変容に結びつけるのは難しい人もいるため、肯定的な感情を受け取る時間をつくることの先に性教育があると、私自身も、この活動を続けていて気づかされました。

性教育は、「子どもが成長してから」「知識を与える」だけでは十分ではない、ということをよりたくさんの人に理解してもらえたらうれしいです。

プロフィル

つるた・ななせ 1995年生まれ、静岡県出身。兵庫県尼崎市在住。日本で性教育を行うNPO法人でインターンをしたのち、文部科学省主催による留学促進キャンペーン「トビタテ留学ジャパン」の支援を受け、性教育を積極的に行う国の教育・医療・福祉などの施設を30カ所以上訪問。帰国後に「性教育の最初の1歩を届ける」ことを目指し、2019年に一般社団法人ソウレッジを設立した。「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN 2021 日本発『世界を変える30歳未満』30人」受賞。