大人が学ぶ 子どもが自分も相手も大切にできる性教育(7) 文・一般社団法人ソウレッジ代表 鶴田七瀬

画・ありお

『タブーからの脱却』

子どもの教育では、「性的な話は全て遠ざける」というのが、第一選択肢に上がることが少なくありません。現在の学校の指導要領からも、高校生まで「妊娠に至る具体的な行為を知らない」というのが理想的な状況とされているように感じます。

距離を置くこと自体が、全て悪いわけではありません。例えば、子どもの持つスマートフォンやゲーム機器に閲覧制限をかけることは小さな子どもの安全のために有効だと思います。しかし、性にまつわる悪質な情報と、教育に必要な要素と、全てを一緒くたにして子どもから離そうとしてしまうのはよくないと思います。

アダルト系の動画や漫画の中で、レイプや相手に同意を求めずに性行為に及ぶ演出、避妊をせずに行為に臨む描写など、犯罪につながる状況を正当化する話が出ていることがあります。知識のない子どもがそうした悪質な情報に触れ、偏ったコンテンツから情報を吸収すると、それが“正しい知識”として蓄積され、現実とフィクションを区別できなくなってしまい大変です。

そうならないためにも、性行為を理論的に説明しているものに触れることが大切です。性的同意の取り方、コンドームのつけ方など、自分の身も相手の身も守るための正しい性知識を子どもから隔離してはいけないのです。

どんなに親が遠ざけようと思っても、世の中には悪質なアダルトコンテンツが至るところに潜んでいます。出会ってしまった時にそれがフィクションだと思える判断軸を、良質なコンテンツから形成しておくと安心です。

子どもから性の話を聞かれた時や、アダルトコンテンツを見ている現場に遭遇した時に、“怒ってしまう”という親もよくいます。おそらく、突然のことに驚いてどうしたらいいか分からなくなり、怒ってしまうのではないでしょうか。聞かれたことにうまく説明できるよう、伝える言葉を持っていれば、怒らずに済みます。

もし、そうした場面に遭遇した時は、次のようにかみ砕いて伝えてあげてください。

(1)性的なものに興味を持つことや、そういったコンテンツを見ること自体は悪いことではない
(2)しかし、犯罪的な描写を含むコンテンツから間違った知識を取り込んでしまい、あなたが誰かを傷つけてしまうことにつながる危険性が高い
(3)誰かを傷つける行為は同時に、あなた自身を傷つけてしまうことにもなり、どちらにも傷ついてほしくないから、今真剣に話している

親の反応や表情を子どもはうかがっているものです。子どもを責めるような言い方をすると、性に対するタブー感が芽生えてしまい、子どもが性に関することで困ったり、本当に危険な目に遭ったりしても言えなくなってしまいます。また、なぜ怒られたのか分からないままでいると、学びにならず、繰り返します。

戸惑った時は、一緒に図書館に行くのも一つです。

ネット上は、信憑性(しんぴょうせい)の高い情報から、どこの誰が何を根拠に書いたのか分からない情報までごちゃ混ぜですが、対して、図書館の本は、ある程度の質が担保されていると言えます。中には怪しいものもありますが、基本的に本は出版社、著者、参考文献等が明記されており、内容に対する責任や根拠の所在が明確になっています。また、同じようなトピックスの本の中でも司書による選りすぐりの本が取り揃(そろ)えられているのが図書館です。

性教育のコーナーがある図書館もあります。何か分からないことがある時に本を開くことを覚えると、次からは自分で調べることもできます。子どもがネット以外に情報を得る手段を持つことは非常に重要です。

最近は、「何か性教育をしなきゃ」と思われる親御さん方が増えてきていると実感しています。「どうやって始めたらいいですか」と問われることも多々あります。

そこで感じているのが、間違いのない、最善の一手から始めたいと思って、なかなか一歩が踏み出せていない方が多いということです。

正直に申し上げますと、性教育に正解の一歩はありません。いろんな子どもがいて、反応も興味を持つこともさまざまです。間違ったと思っても、子どもに響いていないようでも、いろんな方法を駆使して、何度もトライしていくのが教育です。

ぜひ「絶対的な正しさ」を示そうとするのではなく、大人も子どもと一緒によりベターな回答を見つけることを試みてください。

子どもにとって新しいことを学ぶ変化が、小さな積み重ねが、いずれ日常となっていきます。万全な状況でなくても、ゼロよりは遥かに進歩です。

完璧じゃなくて大丈夫です。

プロフィル

つるた・ななせ 1995年生まれ、静岡県出身。兵庫県尼崎市在住。日本で性教育を行うNPO法人でインターンをしたのち、文部科学省主催による留学促進キャンペーン「トビタテ留学ジャパン」の支援を受け、性教育を積極的に行う国の教育・医療・福祉などの施設を30カ所以上訪問。帰国後に「性教育の最初の1歩を届ける」ことを目指し、2019年に一般社団法人ソウレッジを設立した。「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN 2021 日本発『世界を変える30歳未満』30人」受賞。