大人が学ぶ 子どもが自分も相手も大切にできる性教育(2) 文・一般社団法人ソウレッジ代表 鶴田七瀬
画・一般社団法人ソウレッジ
『性教育は怖い?』
第1回では、私の性教育の活動は「課題意識」からスタートしたと話しました。一般社団法人ソウレッジの活動を通して子どもたちに性教育を伝える中で、その時間がとても価値のある、豊かな時間であることを実感しています。
性教育が知識を伝えるだけの時間ではないと思うようになったのは、デンマークに留学したことがきっかけです。デンマークでは、大人も子どもも、男性も女性も、みんなが日常生活の中で当たり前に性的な悩みを相談し合い、避妊具の必要性や体を気遣う大切さなどをお互いに伝え合っていました。
「性教育を当たり前のこととして学び、その学びを生かして性にまつわるリスクを避ける」彼らの姿から、私は日本との明確な違いを感じました。日本では性的なことを避けたり、逆に性的な問題をあえて表に出して相手を傷つけたり、自虐のネタにしたりする人がほとんどです。デンマークの友人との会話に交ざりながら、なぜ日本は性の問題を普通に話せる環境がないのだろうかと疑問に思いました。
日本の教育現場では昔から、保健体育といった科目の中で、「受精」や「妊娠」という言葉は教えるのに、そこに至るための「性行為」や、その内容、やり方、性行為が許容される年齢や立場など、一番大事な部分は取り扱ってはいけないという「歯止め規制」が敷かれているのです。しかし、インターネット社会の現代では、さまざまな情報があふれていて、誰でも簡単に性的な情報を入手できます。その結果、大人も子どもも正否の不確かな情報に踊らされ、幼い子どもがアダルトコンテンツなどの性的な情報に触れられるといった状況に陥ってしまっています。また、SNSの発達で、性的な目的を持った大人とつながりやすい環境があり、危険な状況に陥る若者もいます。正しい性の教育を受ける機会があったなら、正しい選択ができるのに、それを知らないまま成長してしまい、結果として間違った選択をしてしまうことにつながるのです。
性教育を受けないまま育ってしまった現代の若者たちは、性に対する行動が二極化しています。一方は「性的なこと=汚い・よくない」などのイメージを抱いて、性的な行動を避けるようにして生きている人たち。もう一方はとても幼い頃から性的なことに非常に積極的な人たち(自身を危険にする性行為や性的な写真・メッセージを他者に送る行動をよく取っている)です。
私はこの両者でもない、三つ目の存在を増やしていく必要があると考えています。それは、性的なことを過度に避けたり、排除し過ぎたりしないフラットな見方を持ち、さらには、自分や相手を傷つける性行動を抑止する強い意志の両方を併せ持つ人を指します。「避けない」というのは、「性行為をしろ」という意味ではありません。正しい性に関する知識を得る場(包括的性教育を受ける機会)があり、他者と恋愛関係を築く機会ができたら、相手としっかり対話をする中で、「性行為をしたくない」と思った時はきちんと意思表示ができるという意味です。
本来、性教育は危険な性行動を助長するような怖いものではなく、自分は愛されている存在なんだと実感できる延長にあるものです。
性的なことに興味を持ったり、性的な行為をしたり、そうしたことは人生の中で経験する人とそうでない人もいます。しかし、自分が、もしくはわが子が、性的な行為に臨む時に身心が傷ついたり、相手を傷つけたりしないように、性教育を通して準備をしておくことはとても重要です。性知識があるということは、納得できる豊かな人生を歩んでいく上で非常に大事なことである――。デンマーク留学をきっかけにして、そんなことを考え始めました。
プロフィル
つるた・ななせ 1995年生まれ、静岡県出身。兵庫県尼崎市在住。日本で性教育を行うNPO法人でインターンをしたのち、文部科学省主催による留学促進キャンペーン「トビタテ留学ジャパン」の支援を受け、性教育を積極的に行う国の教育・医療・福祉などの施設を30カ所以上訪問。帰国後に「性教育の最初の1歩を届ける」ことを目指し、2019年に一般社団法人ソウレッジを設立した。「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN 2021 日本発『世界を変える30歳未満』30人」受賞。
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