こども食堂から築く共に生きる社会(9) 文・湯浅誠(認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長)
画・福井彩乃
未来を生きる子どもたちへ――「バトン」を手渡す私たちの生き方
自分の暮らす地域がずっと続いていくためには、今何をすればいいか――こども食堂はその答えの一つだと前回書きました。
先日、高齢化の進む地域でこども食堂をやっている方から聞きました。「地域の方たちから、久しぶりに子どもの姿を見た、と喜ばれました」と。子どもの姿を見るのが久しぶりという地域にとって、子どもがいなくなり、人が住まなくなる「地域消滅」への懸念は切実です。こども食堂は、地域のバトンを次の世代につなごうとする取り組みでもあるのです。
滋賀県でこども食堂をしている方から、開設1周年のときに、子どもたちが寄せ書きしてくれたのがうれしかったという話を聞きました。聞けば、小学校3年生の女の子が「これからもこども食堂を大切にしていきます」と書いてくれたとのこと。10歳に満たない女の子が「大切にしていきます」と表現するものは多くはありません。毎晩一緒に寝ているぬいぐるみとか、クラスで一番仲のよいお友達のような存在に、そのこども食堂がなっているのだと感じられました。そして、滋賀のこども食堂の方たちは、その少女のエピソードを、自分たちにとってもっとも喜ばしいエピソードに選びました。「こういう子がこの地域で育まれているというのが、未来につながっていく感じがする」という理由でした。
地域の人々が運営する場に強い愛着を感じて育っていく子は、きっとこの地域のことを考えてくれる大人になるんじゃないか。そうやって次の世代、次の次の世代へとバトンを渡していくことで、孤立したり、居場所を失ったりしない温かな地域を、将来にわたって存続させていくことができるんだ――こども食堂のみなさんの話から、そうした希望が伝わってきました。
この小学校3年生の女の子は、この先きっと、成人を迎え、就職や結婚といった人生の節目を経験して、次の世紀を生きるのだと思います。22世紀になったとき、おばあちゃんになった少女が、自分のひ孫くらいの子どもたちに「私はあんたたちを本当に大切に思っているんだよ。それは、私が小さかった頃、同じように話を聞いてくれたり、一緒に遊んだり、食事のサポートをしてくれた人たちがこの地域にいて、その場所が好きで好きで、たまらなかったからだよ」と話しているような未来をつくりたい、と私は願っています。「あの人たちのせいで、22世紀を生きる私たちは大変なことになった」と2022年の現代を振り返られるのはつらいものです。できれば、「あの人たちのおかげで、今がある」と振り返ってもらいたい。そのために、私たちは今をどう生きればいいのでしょうか。
現在、環境破壊や気候変動といった問題が、地球規模の課題として人類の目の前に横たわっています。私たちが暮らす地球の環境もまた、現代を生きる私たちから22世紀を生きる子どもたちに引き継がれるバトンです。そして、この環境破壊や気候変動の問題を自分事として捉え、改善に向けて一人ひとりが行動することが求められています。これを一言で言い表すならば、「よい祖先になるために、今をどう生きればいいのか」ということなのではないでしょうか。
自らの経験を踏まえて、私は、こども食堂のような取り組みは、私たちが「よい祖先になる」ために必要な取り組みだと思っています。次号でまた詳しくお話しします。(つづく)
プロフィル
ゆあさ・まこと 1969年、東京都生まれ。東京大学法学部を卒業。社会活動家としてホームレス支援に取り組み、2009年から3年間内閣府参与を務めた。現在、東京大学先端科学技術研究センター特任教授、全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長。これまでに、「こども食堂安心・安全プロジェクト」でCampfireAward2018を受賞した。