こども食堂から築く共に生きる社会(3) 文・湯浅誠(認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長)
画・福井彩乃
大変な誰かをさりげなく包み込む
「貧困の子どもにあなたができることは?」と聞かれたら、あまりないような気がするが、地域のにぎわいをつくりたい、そこからはじかれる子をなくしたい、ということなら、自分にもできることはあるような気がする――そんな人たちの思いを集めるようにして、こども食堂は広がっていきました。
私は、「みんなの中に大変な誰かを(さりげなく)包み込む」という、こども食堂のこのスタンスがすばらしいと思います。「大変な人」を見つけて名指すのは大変だし、何よりもその人自身に引け目を感じさせます。これを「スティグマ」(差別、偏見)といい、「恥の意識」と訳すこともあります。「大変な人だから支援する」というのは、誰もが認める正論ですが、「あなたは大変だから支援してあげる」というのは、実は本人にはつらいことです。できることなら、「あなたは大変な人」というラベルを貼らずに支えられるといい。そのためには、「いいよ、いいよ、みんなおいでよ。みんなで食べるとおいしいよね」と、誰にもラベルを貼らずに「みんな」の中に誰でも入れるようにしておけることが望ましい。これが、こども食堂の「知恵」なのだと思います。
私は長い間、生活が苦しくなってしまった方たちの相談を受けてきましたが、「相談に行く」というのはとても大きな勇気のいる行為で、簡単なことではありません。相談に行くというのは「あなたは大変な人」と認定されることを覚悟しなければなりませんし、自分ではもうどうにもできないと認めることにもなります。「自分の中の何かが折れるような気がした」といった言葉を聞いたこともあります。だから人々は、なかなか相談に行かず、相談に来たときには事態が劇的に悪化してしまっていることが多いのです。それゆえ、私たちはずいぶん長い間、「どうしてもっと早く来ないのか」と言い続けてきました。そして、もっと早く相談に来るようになるための工夫、早くにつながるための工夫を積み重ねてきました。その工夫の一つひとつに意味はあるし、重要なことだと思いますが、しかし、やはり限界もあります。その限界とは、「あなたは大変な人、と認定される」という事実です。いろいろ工夫しても、この事実がなくなることはなく、相談に行くのには大変な勇気がいるという事実も根本的には変わりませんでした。だから役所の相談窓口では、依然として「なんでもっと早く来ないんですか」と言い続けています。
その苦労をしてきた者からすると、「みんなの中に大変な誰かを(さりげなく)包み込む」というこども食堂のアプローチは「発明」です。このような手法が編み出され、全国6000カ所にまで普及してきたことで、いったいどれだけの人が窮地から助け出されたか、計り知れないものがあると感じています。
そしてそこには、私自身の個人的な思い入れもありました。(つづく)
プロフィル
ゆあさ・まこと 1969年、東京都生まれ。東京大学法学部を卒業。社会活動家としてホームレス支援に取り組み、2009年から3年間内閣府参与を務めた。現在、東京大学先端科学技術研究センター特任教授、全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長。これまでに、「こども食堂安心・安全プロジェクト」でCampfireAward2018を受賞した。