弱小チームから常勝軍団へ~佼成学園高校アメリカンフットボール部「ロータス」クリスマスボウル3連覇の軌跡~(6) 文・相沢光一(スポーツライター)

実力の公表が生む“合理的厳しさ”

そのひとつが、部員の実力ランクの公表だ。練習時には、部室の前にホワイトボードが置かれる。そのボードの左端には、上から順に「START」「1st」「2nd」「JV」と書かれており、それぞれの右側には部員の名前を記したマグネットのカードが張られている。

学年ごとに色分けされたマグネットシールで選手のランクが示される※選手の名前は伏せています

最上段の「START」は、試合で先発(スターター)として起用されるランクを示している。ここには、ロータスで採用されている数百に及ぶアサイメントを覚え、それを忠実に実行できるスキルを備えた各ポジションの実力最上位の選手が名を連ねる。

「1st」 は実力的には同等だが、スターターを任せるまでの信頼感はなく、試合では交代出場するランク。「2nd」 は、アサイメントはひと通り覚えているものの、プレーの質に課題が残るランク。大差で勝っている時など試合の展開次第では起用される。「JV」はアメリカンフットボール用語で2軍を意味する「Junior Varsity」。アサイメントの理解度やスキルにおいて発展途上の選手であり、基本的に試合に出場することはない。

この実力ランクは固定されているわけではなく、日々、昇格と降格を繰り返しているという。その判定をするのは、小林監督とコーチ陣だ。

「練習はすべてビデオカメラで撮影しています。私はもちろんすぐに映像を確認しますが、コーチも各人が持つデジタル端末で選手のプレーをチェックします。そして話し合いの上で、昇格・降格の判断を下します」(小林監督)

ランクの昇格・降格があるため、部員たちは決して気を抜くことなく常にベストなプレーに努めることになる。結果、部内の競争意識が高まり、レベルアップが促される。小林監督が冷静に見守る姿勢に終始するのは、部員に余計なプレッシャーを与えず、練習に集中してほしいからだ。

また、降格された選手は小林監督に直接、その理由を聞くことができるという。そこで課題を指摘し、改善のアドバイスを行うのだ。この対話が部員を納得させ、再昇格への意欲と努力につながる。実力ランクの公表は、自然に部員の緩みを抑え、向上心も生む、つまりすべてをプラスに作用させるロータス流の合理的厳しさと言える。

試合日の時点で「START」の位置に名前がある部員がそのまま起用されることになる。実力ランクの公表は、試合での選手起用に透明性があることも意味しているのだ。

だから、部員全員が納得し、一丸となって試合に臨める。どの競技でも強豪校は部員数が多く、1軍、2軍のランク分けがあるものだが、それは監督の頭にあり、部員たちは出場メンバーが発表されるのをドキドキしながら待つということがよくある。この場合、メンバーに選ばれなかった部員は当然不満をもつが、監督には逆らえず、受け入れるしかないという構図が多くの部活にある。実力ランクを公表するロータスでは、部員にこうしたモヤモヤが生まれることはない。フェアであり、部員がすっきりとした気分で試合に臨めるシステムでもあるのだ。

こうした自主性を重んじる環境に、選手の心理に寄り添った厳しさがプラスされ、ロータスは強さを発揮するようになった。しかし、日本一を決めるクリスマスボウル出場権を賭けた
関東大会決勝では、あと一歩のところで勝てない状態が続いた。

なぜ勝てないのか。勝利のために打てる手は打ってきたと自負する小林監督も、さすがに考え込んだという。そんな姿を見て、関孝英コーチがあるスローガンを提案した。「連覇」である。

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