弱小チームから常勝軍団へ~佼成学園高校アメリカンフットボール部「ロータス」クリスマスボウル3連覇の軌跡~(5) 文・相沢光一(スポーツライター)
意識を高める“One to One”の練習
「指導役になるのは実力が認められた証しであり、その部員にとっては名誉なことなのですが、同時に責任も生じます。プレーには危険が伴いますし、間違いを教えてはいけないですからね。改めてポジションの役割や身に付けたスキルについて考え、何が正しいのかを探究するようになるのです。また、練習や試合では良い手本にならなければならない。指導役を務めることによって、その部員自身のプレーに対する意識が高まったのです」(小林監督)
部員同士の1対1の指導は、人とのコミュニケーションを学ぶ機会にもなる。1年生の多くはアメリカンフットボールのルールや用語もあまり知らない初心者だ。そんな相手に技術を的確に伝え、納得させるのは簡単なことではない。どんな言葉を使い、どう表現したら分かってもらえるのか。それを考え、伝える努力を重ねることは意志疎通を図る上でいい勉強になるのだ。
教えられる側の1年生にとっても、この指導システムはうれしいだろう。1年生はロータスの評判を知った上で入部したはずだが、それでも不安はあるに違いない。「先輩は怖くないだろうか」「練習についていけるだろうか」、と。しかし、上級生たちは先輩風を吹かすこともなく気さくに声をかけてきて、指導までしてくれるのだ。このような形で部活がスタートするせいか、ロータスには上級生と下級生を隔てる壁は感じられない。
学校の運動部といえば思い浮かぶのが「体育会系」と呼ばれる厳しい上下関係だ。強化に熱心な学校は、これに「スパルタ練習」が加わる。だが、ロータスの部活には、どちらの要素もまったく見当たらない。
体育会系の部活は3年生を頂点としたタテ社会であり、最下層の1年生は部独特の約束事を守ることを強制される。例を挙げれば、練習用具の準備、グラウンド整備、部室の掃除などは1年生の役目。上級生に対する厳密なあいさつの仕方があったり、部活中は私語厳禁といった決まりがあったりする。そして上級生の機嫌を損ねると、シゴキを受けることもある。今は昔のようなあからさまな体育会体質をもつ部は減っているといわれるが、伝統を重んじる強豪校などには、いまだその傾向は残っているようだ。
ロータスの場合も基本的に練習用具の準備は1年生が行う。ただし、2年生は責任者となって指導をし、時には3年生もフォローに入るよう分担している。特筆すべきは、入部直後、関東大会がある5月半ばまでの間、1年生は練習に慣れさせるために仕事が免除されることだ。
また、あいさつは部のしきたりとして行なうものではなく、「佼成学園の生徒なら、できて当たり前」という考え。筆者はこの取材のため、学園を何度も訪問しているが、廊下ですれ違う生徒のほぼ全員から「こんにちは」と声をかけられた。確かに佼成学園の生徒にとってあいさつは「できて当たり前」のことなのだ。また、前述したように上級生と1年生は指導を通して密接な人間関係が築かれているから、気を遣うこともないし、ましてやシゴキが行われることなど考えられないのだ。