男たちの介護――(17) 遠距離の老老介護 母と穏やかな時間を過ごすために

母を見送るまでは倒れない

仲田惠三さん(71)は、7年前から父親の介護のため、自宅から約500キロ離れている生家へ、月に一度通っていた。いわゆる「遠距離介護」だった。

その父親が亡くなり、一人で暮らす母親のもとへ帰っている時、接骨院から帰宅した母親がぽつりと言った。「足の付け根が痛い」。平成27年5月のことだ。仲田さんは母親のきよさん(92)を連れ、町の中心部にある総合病院を訪れた。

「畑で鍬(くわ)を使って農作業をしたせいだろうか」。一緒に帰省していた妻のともよさん(68)とそう話していた。エックス線検査の結果は、大腿骨頚部(だいたいこつけいぶ)の圧迫骨折。骨密度の急速な低下が原因と医師から告げられた。大腿骨をギプスで固定し、3週間の入院を余儀なくされた。〈再び歩けるようになるのだろうか〉。農作業を生きがいとする母を思い、一抹の不安を覚えた。

きよさんは退院後、順調に快方へ向かった。自分の家に母親を呼び寄せることは考えなかった。住み慣れた土地での生活が一番と考えたからだ。その代わり、ひと月に2週間帰省することと、冬は正月を実家で過ごした後、雪解けする4月まで自宅へ連れて行き一緒に過ごすことに決めた。〈あんち(長男)である自分が親の面倒を見るのが当然〉と思い、これまで生きてきたし、結婚した当初、父親と「定年になったらこの町に帰ってくる」と交わした約束も忘れていたわけではない。しかし、互いの生活を大きく変えず、可能な限り一緒にいることが親孝行と判断した。