男たちの介護――(15) 岡田利伸さんの体験を読んで 津止正敏・立命館大学教授

そして岡田さんは、もう一つの介護の役割も果たしていました。岡田さんご夫婦は三人の子供に恵まれましたが、次男の哲也さん(37)=仮名=は筋ジストロフィーという難病を背負い、現在は医療センターで療養生活を送られています。チヨさんの介護の合間を縫って、片道140キロの道のりを車でひた走り、哲也さんの病室を訪ねます。親の介護と同時に、障害のある子供の介護という複数介護を担っているのです。

いっときも身の休まらない介護の日々が、おそらくは岡田さんの健康を蝕(むしば)んでいったのでしょう。今度は岡田さん自身が膀胱(ぼうこう)がんに罹(かか)ってしまいます。幸い手術は成功しますが、岡田さんには気づかされたことがありました。それは、どれほど強い思いがあったとしても、あるいは介護が生きがいだとしても、一人でできることには限界があるということです。そして、介護者自身が心身共に健康でないと共倒れしかねないという事実です。介護を一人で背負い込まない。介護する人も自分の時間を大事にする。家族や友人など、周囲にSOSを出して協力してもらう。岡田さんのこうした気づきは、介護する全ての人に役立つ知恵と言えるでしょう。

チヨさんは彼(か)の岸へ旅立ちましたが、岡田さんは自身の介護体験を「人間として成長できるチャンスだった」と述懐しています。介護はつらくて大変、でも決してそればかりではないはずです。介護以前と比べて、きっと深い人生を送ることも可能なのだということを、岡田さんの介護体験は教えてくれているのです。

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