男たちの介護――(5) 認知症の母との二人暮らし 心折れそうになりながら 

85歳を過ぎたころから、智代さんは「どこかへ連れて行ってほしい」と頻繁にせがむようになった。車椅子に乗せてショッピングセンターを巡り、県内をドライブした。色とりどりの花が咲き誇る花畑にもよく出掛けた。「一緒にドライブをしたり、花を見に行ったりすると母は無邪気に笑うんです。まるで子供のようでした」と振り返る。

認知症が進行するにつれ、趣味の読書やパズルに全く関心を示さなくなった。そして、昨年1月、嚥下(えんげ)が困難になり、ほとんど寝たきりの状態となった。間もなく、介護療養型医療施設に入院した。智代さんのいない家の静けさに、なかなか慣れなかった。一方で、介護のストレスから解放され、肩の荷が下りた気分でもあった。

4カ月後、智代さんは静かに息を引き取った。享年94。言葉を交わすこともできなくなっていたが、その顔はとても穏やかだった。「今までよくお世話をしてくれて、本当にありがとうね」。そう言ってもらえた気がした。

家の玄関や部屋に母親の写真を何枚も飾った。満面の笑みを浮かべる智代さん。それは、春の陽光が降り注ぐ世羅高原農場のチューリップ祭で撮影したものだった。

元気だった母親と楽しそうに散策する情景を説明しながら、藤堂さんはしみじみと語ってくれた。

「生きるということは、何かを失っていくことかもしれませんね。失いながら自分にとって本当に大事なものが分かってくる。でも、家に母がいないと、やっぱり寂しい。母が私にとって一番大事な存在だったという証しでしょうか」

最近、あと何年生きられるのだろうかと考える。10年。20年。今後は、同じように悩みを抱える人たちに寄り添い、支えていける人になりたい。それが藤堂さんの願いである。

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