男たちの介護――プロローグ 津止正敏・立命館大学教授に聞く
妻や両親の介護を一人で背負う男性は少なくない。年齢的にも高齢の人たちだ。助けを求めたくても、子供たちは遠くに住んでいたり、子供に迷惑は掛けられないといった遠慮が働いたりするからなのだろうか。男性介護者を孤立から守るにはどうすればよいのか、連載を通し探っていきたい。プロローグとして男性介護者が置かれている実情と課題を立命館大学の津止正敏教授(社会学)に聞いた。
追い込まれる男たち
超高齢社会で、誰もが避けて通れないのが家族の介護です。近年は男性の介護者が増え、厚生労働省の国民生活基礎調査(平成28年)によると、在宅介護をしている人の3人に1人が男性だといわれます。しかも、在宅介護のうち介護する側と受ける側がいずれも75歳以上の「老老介護」の割合が3割を超え、高齢化と核家族化の進行でさらに割合が高まることが判明しています。
私は、2009年3月に「男性介護者と支援者の全国ネットワーク(男性介護ネット)」を設立して支援活動を続けています。これまで多くの男性介護者にお会いしてきましたが、男性介護者にとって一番の悩みは何だと思いますか? それは、誰にも相談できずに一人で悩みを抱え込んでしまうことです。
男性の場合、近所に相談相手もいなければ、家事をしてこなかった人が大半でしょうから、戸惑うことばかりです。これは、多くの男性介護者が話してくれたことですが、日中、奥さま方に交じって買い物をするのがとても苦手だということでした。
また、認知症などの知識もないので、どう対処すればいいのか見通しが立たず、絶望感を覚える人も少なくありません。外からのサポートをためらい、周囲の人たちの気遣いや社会的支援を受けられず、前途に絶望し、悲しい事件を引き起こしてしまうことは、皆さんもご存じのことでしょう。高齢者介護をめぐる家族間の殺人事件などの加害者の70%は男性というデータもあります。
男性介護ネットの「体験記」に兄の自死を記した妹からの寄稿がありました。兄は認知症になった母親の介護を始めました。心配した妹は母を引き取るつもりでいましたが、兄は「おまえには家庭があるだろう。母さんの面倒は俺が見るよ」と制止したのです。ところが、その2年後、「母さんの面倒はもう見きれない」と遺書を残したまま自殺をしました。親孝行のつもりで、親の介護を始めたはずなのに、まさか自分が自殺に追い込まれるなんて思ってもみなかったことでしょう。悔やんでも悔やみきれないのは、本人自身かもしれません。