TKWO――音楽とともにある人生♪ トランペット・ガルシア・安藤真美子さん Vol.2

育児と仕事の両立

――「女性」というだけで感じた苦い思い出はありますか

“女性”と、ひとくくりにされてしまうことです。演奏で苦手な部分があって、うまくいかない時に、「やっぱり、女の子ってこういうの苦手だよね」と言われることがありました。それは女性だから苦手なことではなくて、私個人の能力が足りなくて、できないだけなのに。

一方で、男性は「男だから」と言われることはありません。「おまえはタンギングが下手だな」「もっと大きな音を出せ」と、個人として苦手な部分を指導されている場面を見てきました。「安藤真美子」自身ではなく、トランペット奏者の女性代表として、私ができないことは、女性のできないことの典型的な例として捉えられてしまう――そうしたことが重なって、だんだんと変な責任感が芽生えていきました。後から続く女性が、私のせいで「女性だからできない」と決め付けられてしまわないか、心配でした。だから、失敗はできないと。今は女性の奏者が増えたので、そんなことを心配する必要もなくなりましたが。

こういったことがあるので、自分の演奏について褒められた時にも、つい考えてしまうことがありました。「今、褒められているのは女性の割には、という意味で褒められているのではないか。男性だったら、褒められるようなことではないのではないか。本当に今の演奏は、実際に仕事で使えるのか」。そう自分に問い掛け、相手が言ってくださる評価をそのまま受け入れられない時期が、今思えばあったと思います。

――先駆けとしての苦労があったのですね。安藤さんは今、一児の母でもあります。演奏家と育児の両立はどのようにしているのですか

一昨年に女の子を出産し、今は、仕事の方は以前よりも抑えて活動しています。でも、ステージに立つ機会は減っても、一回一回の演奏は最高のパフォーマンスでできるように努力しています。はじめは子供ができたことで環境が変わり、練習時間を捻出することに苦戦しました。自分が練習をしたいと思ったタイミングでできないので、集中ができないのも課題でした。

そのうち、1時間や2時間と短い時間に瞬間的に集中できるようになってきました。育児と仕事を両立させるには、「できる時間を逃さないこと」が大切で、娘を保育園に送り出して、9時から17時までが私の時間です。仕事がない日は、洗濯物を干したり、掃除をしたり、その間に練習をしたりと、あっという間に17時が来ます。東京を離れて各地で演奏する時は、家事や育児の準備を整えて、一泊だけ夫に託して出掛けます。今のところ、連泊の仕事はお休みしていますが、少しずつ再開していく予定です。

――出産後に仕事をやめようとは思いませんでしたか

仕事を続けることに迷いはありませんでした。ですが、高齢出産な上に、帝王切開だったので、出産直後は身体が思うように動かず、痛くて、しばらくは楽器を吹くことができませんでした。その中で、どうやって復帰しようかと考えていました。

身体の調子を整えるために、まず骨盤を整えることから取り掛かり、整体に通う以外に、ベルトを着けて矯正したり、筋トレをしたり、立っている時や歩いている時は気を抜かずに筋肉を使うことを意識しました。あとは、奏者として大切な肺活量が減り、楽器を吹く口の形をつくる筋肉が衰えていると感じていたので、それぞれ鍛える器具を使用し、回復に努めました。7カ月間で復帰しましたが、本当に元に戻ったなと感じるまでは1年ほどかかりました。

復帰直後は、出産前のようにはいきませんでしたが、プロ奏者としての責任とプライド、そして、周りのメンバーのサポートもあって、ブランクを乗り越えることができました。

プロフィル

がるしあ・あんどう・まみこ 1974年、愛知・名古屋市生まれ。名古屋市立菊里高等学校音楽科、東京藝術大学音楽学部卒業後、シエナ・ウインド・オーケストラに入団。2002年にTKWOに移籍した。ギタリストの夫、エドアルド・ガルシア氏とトランペットとギターのデュオ「シエンプレ・デュオ」を結成。アルゼンチン音楽を中心とした演奏を手掛け、各地でライブ活動を行っている。