「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(4) 文・黒古一夫(文芸評論家)

画・吉永 昌生

核廃絶へ動き出した国際社会

現在、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国、インド、パキスタン、北朝鮮の核保有国(8カ国、他に公表していないがイスラエルも核保有国と見なされている)が保有する全ての核兵器によって、地球上の全人類を7回半絶滅させることができる、と言われている。そんな状況にあるにもかかわらず、核保有国はいまだに核兵器の小型化、高性能化を目指して核開発をやめようとしない。併せて、核の平和利用と言われる原子力発電所も、フクシマが象徴するように大事故が起きる可能性を否定できない状況にある。

昨年7月7日、国連が122カ国(上記の核保有国や日本などアメリカの「核の傘」の下にいる国は不参加)の賛同を得て、「核兵器禁止条約」を採択したのも、従来のあり方では核兵器はなくならず、核が人類を滅ぼすと世界中の人々が認識するようになったからと言っていいだろう。そして、この条約を推進した「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)が2017年のノーベル平和賞を受賞した。

このような核を巡る状況により、人々の「核廃絶」の願いが少しずつ実現に近づいているとも考えられる。一方で「核抑止力」を信奉している政治主導者がいまだに多数を占めている現実を知ると、「核廃絶」実現の道は遠いのではないか、といった悲観的な思いも禁じ得ない。

私たちには、どんな未来が待っているのだろうか。

プロフィル

くろこ・かずお 1945年、群馬県生まれ。法政大学大学院文学研究科博士課程修了後、筑波大学大学院教授を務める。現在、筑波大学名誉教授で、文芸作品の解説、論考、エッセー、書評の執筆を続ける。著書に『北村透谷論――天空への渇望』(冬樹社)、『原爆とことば――原民喜から林京子まで』(三一書房)、『作家はこのようにして生まれ、大きくなった――大江健三郎伝説』(河出書房新社)、『魂の救済を求めて――文学と宗教との共振』(佼成出版社)など多数。

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