食から見た現代(27) 犬が海の王者・サメをパクリ!? 文・石井光太

久師氏は話す。

「なぜサメの肉が練り物になっているかといえば、他の魚に比べて味が劣るからです。青森や新潟など一部の地域にはサメ食文化がありますが、味が良いからではなく、アンモニアによって腐敗が遅く、内陸部でもたんぱく源になるからです。あえてみりん干しや醤油干しにして味を追加しています。

サメの肉を余すところなく利用するために、別の味を加えて商品として売り出すこと自体は間違いではありません。ただ、僕の中には、人がおいしいと感じないものを、あえて強く味付けして売ることに抵抗がありました。それなら、気仙沼産のメカジキやカツオなどもっとおいしい魚をおいしく食べてほしいと思っていたんです」

そんな久師氏の頭に浮かんだのが、サメ肉をペットフードにするというアイディアだった。彼自身が愛犬家として犬を飼っていたこともあって、人間にとっておいしいと感じなくても、動物にとってはそうではないかもしれないと視点を変えて考えたのだ。

2016年から久師氏はサメ肉のペットフード化を実現すべく、複数の大学と共同研究をはじめた。予想通り、サメ肉に含まれるアンモニアは、人間にとっては嫌悪感を覚えるものであっても、動物にとっては好ましいものだった。犬が尿でマーキングをすることからわかるように、興味をそそる臭いなのだ。

ただし、サメ肉をそのままペットフードにしたからといって商品として成立するわけではない。ペットの世話をし、エサを買い与えるのは、飼い主である人間だ。その飼い主がアンモニア臭を気にして家に保管するのを嫌がったり、ペットに与えたりすることに抵抗を感じたりすれば商品にはならない。そこで飼い主が気にならず、しかしペットが喜ぶ程度に臭いを付けた商品を開発したのである。

こうして誕生したのが、石渡商店の「UMINO PET」シリーズだった。久師氏は話す。

「商品化の前からサメ肉はペットフードに向いているという確信はありました。低カロリー、高たんぱく、糖質ゼロである上、コラーゲンやコンドロイチンが豊富に含まれています。

また、私たちがアピールしているのは、この商品が一般的なペットフードよりアレルギーに強い点です。つまり、ペットがこれを食べてアレルギーを起こす可能性が極めて低いのです。

現在、市場に流通しているペットフードの多くは鶏肉など誰もが知る肉が使われています。ただ、同じものを何代にもわたって摂取していると、それに対するアレルギー反応が出てしまう。その点、サメはこれまでペットフードとして用いられたことはほとんどありません。ですので、アレルギーが起こることが少ないのです」

近年、ペットのアレルギーは大きな問題になっている。そのため、意識の高い飼い主は、ワニやカンガルーの肉を使用した海外のペットフードを購入したり、国内産で開発されているイノシシやシカといったジビエのものを選んだりしている。

これらの肉は、鶏肉に比べればアレルギーのリスクは抑えられるが、一方で大量にとれるわけではないので安定的な供給が難しい。その点、サメは食物連鎖のトップにいるために数の増減が少なく、一匹から取れる肉の量も多いため、365日安定して確保することができる。100%気仙沼で製造し、生産地を明示するのも可能だ。

久師氏は言う。

「この商品は栄養とアレルゲンに有効であることに加え、商品そのものだけでなく、生産工程でもサステナブルを重視することにしました。専用の工場をコロナ禍に建てたのですが、ここは適切に管理された森林から採ったことを証明するFSC認証のある木材が用いられ、電力もソーラーパネルから引いたものを利用しています。災害時には、ペットの避難所として使えるようにもなっています。

近年、飼い主がペットフードに求める要求は非常に高くなっています。そうした製品をつくるのは簡単ではありませんが、信頼していただける商品を開発できれば確実に買ってもらえると信じています。うちのような企業がすべきなのは、そういう質の高い製品作りだと思っています」

ペットフード市場では高級な新商品が続々と販売されているが、それは同時に飼い主の選別眼も厳しくなっているということだ。愛犬家の久師氏だからこそ、彼らの目線で何が求められているかを読み解くことができるのだろう。

今後、石渡商店は、この市場にどんな可能性を見いだしているのか。久師氏は語る。

「石渡商店はフカヒレから生まれ、成り立っている会社です。そういう意味では、サメを極めたいという思いがあります。

ペット市場の分野で取り組んでいるのは、動物医療への進出です。サメの肉には様々な成分があります。たとえば、コラーゲンをうまく使えば皮膚のケアに効きます。そういう形で、今後は動物の健康を維持したり、体の不具合を治したりする商品を開発したいと思っているのです。すでに獣医と一緒に研究を進めていて、今後はペットフードと動物医療の両輪で商品を展開していくつもりです」

サメ由来の成分は、人間の美容などにも使われてきた。それを考えれば、動物医療への応用も可能だろう。

食料資源の問題が世界的に大きくなる中で、サメ肉をいかにサステナブルの分野で活かしていくのか。

それはペットを飼う人々も含めた大きな課題なのだ。

プロフィル

いしい・こうた 1977年、東京生まれ。国内外の貧困、医療、戦争、災害、事件などをテーマに取材し、執筆活動を続ける。『神の棄てた裸体』『絶対貧困』『遺体』『浮浪児1945-』『蛍の森』『43回の殺意』『近親殺人』(新潮社)、『物乞う仏陀』『アジアにこぼれた涙』『本当の貧困の話をしよう』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』(文藝春秋)など多数。その他、『ぼくたちはなぜ、学校へ行くのか。』(ポプラ社)、『みんなのチャンス』(少年写真新聞社)など児童書も数多く手掛けている。最新刊に『少子化に打ち勝った保育園─熊本「やまなみこども園」で起きた奇跡─』(新潮社)。

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