リレーエッセイ「声なき“生きづらさ”に寄り添う」1-(3)(認定NPO法人ロージーベル代表 大沼えり子)

子どもたちの「家」――たったひとつの笑顔のために
認定NPO法人ロージーベル理事長 大沼えり子
「ひと掬(すく)いの水」
私のこの手はこんなに小さいけれど
救い取った水を 君上げる
君のこころが 潤うように
渇いた 君の こころに
小さな 花が咲くように……
社会復帰のために少年院でどれだけ頑張っても、帰る家がない、住む場所がない、受け入れてくれる人もいない――この現実を知った49歳の私は、彼らが帰ってくることのできる家を作るという夢を抱きました。ただ、現実はなかなか厳しいものでした。関係機関の方々からは、「そう思う人はたくさんいますが、ここ60年、できたことがないんですよ。いくら大沼さんでも無理ですよ」と言われるばかり。しかし、どうしても諦められずにいた時、窃盗で再犯になった少年の付添人を務めているという弁護士から連絡がありました。
罪を犯したとされる少年の多くは、家庭裁判所に送られ、少年審判を受けます。これは刑事裁判とは違って非公開です。その際、付添人は、少年の権利を守る立場として裁判官らとの協議を行うほか、彼らの生活環境などの調整を行います。担い手が少なく、当時は付添人がつくこと自体が珍しい時代でした。彼は私の夢に共感してくれて、私はさまざまなアドバイスをもらいながら、夢の実現に向けて歩み始めたのです。
まずは法人を立ち上げました。その弁護士さんご夫妻やそのお仲間、少年院DJの番組制作スタッフ、そして私の友人の12人で設立し、2009年には認定NPO法人の資格を取得しました。法人名は「ロージーベル」。私のパーソナリティーネーム「ロージー」から、<ロージーの奏でる幸せの鐘が日本中に響きわたりますように>との願いを込めて付けました。私の番組を聴いてくれていた少年院の子どもたちが考えてくれた名前です。
私たちは「家」の建設に向けた支援者を募りました。訪ね先の多くの方々に応援を頂きましたが、建設費には及ばず、貸家で開始することを決意し、物件を探すこと2年半。257件目にようやく古い一軒家を借りることができました。
奇しくも東日本大震災が起きた11年の1月、宮城県名取市で、更生保護の分野で日本初となる民間の自立準備ホーム「ロージーハウス」の運営開始にこぎつけました。震災後、帰る場所のない6人の少年が入居しました。「よく来たね。今日から家族だよ! よろしくね!」。そう声をかけると、彼らは驚きつつ、笑みをこぼしました。夕食では、彼らは「美味(おい)しい美味しい」と言って用意した食事をぺろりと平らげ、1升炊きの釜はあっという間に空っぽ。追加で炊くほどでした。食事の後はこたつに集まり、たくさん笑い、お菓子を食べながらいろいろな話をしました。自立のためには仕事を見つけなければなりません。彼らは、「震災復興に関わりたい」と言い、翌日から寮母が作ったお弁当を大喜びで持参して、全員でさっそうと被災地に向かいました。
夕方、「ただいまー」という元気な声と共に、彼らは泥だらけで帰ってきました。玄関先で年長の少年が「えり子さん、俺たち役に立ってるっすよね。俺たちだって生きてて良いんすよね」とぽつり。12の瞳が私を見つめていました。「もちろんだよ! 私は君たちが自慢だよ!」。そう答えると、彼らの瞳から涙がこぼれ落ちました。これまで、虐待を受け、「いらない」と言われ続けた子どもたちが、そんな生活から脱し、やっと安心して暮らせる場所にたどり着けた安堵(あんど)の涙だと、私は受けとめています。
開設以来、112人の少年たちが家族になりました。普段の生活の中で子どもたちが「生まれて一番幸せ」と口にすることがあります。その瞬間、私はそれ以上の幸せをもらっていることに気づき、感謝の思いが込み上げて胸がいっぱいになります。
ただ、運営は楽ではありません。私は本を書き、ドラマや映画「君の笑顔に会いたくて」を製作して資金を調達し、立正佼成会の会員の皆さまにも応援して頂きながら頑張っています。21年には女子の家「メゾン」も開設し、現在に至っています。
私は、関わった全ての子どもたちに私たちの活動を忘れてほしいと願っています。人は本当に幸せな時には、つらい過去のことなど思い出すことはありませんから。
「ひと掬いの水」。それは誰の心にもある温かな想(おも)いです。目をそらさず、その想いを行動に移せたなら、生きづらさを超え、誰もが幸せになるあたたかな社会に近づくと信じています。
ロージーベル、そこは生きることを否定され続けてきた少年たちの命と心を守る「生きなおし」の場所です。
「君たちは一人じゃない、一緒に幸せになろう!」
生きづらさと絶望の日々を生き抜いてきた彼らの命が輝くその日を信じ、子どもたちの「家」を守っていきたいと思います。
※映画「君の笑顔に会いたくて」は上映素材の貸し出しをしています。多くの方にご覧いただき、理解を深める一助となりますと幸いです。





