バチカンから見た世界(33) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

米国第一主義を後押しするキリスト教原理主義――イエズス会機関誌の分析

米国のキリスト教原理主義者は、『旧約聖書』の創世記を解釈することなく文字通りに受け入れ、人間を神による創造物の「支配者」だと受けとめている。「気候変動や世界環境の危機が、彼らの教義を見直すように促しているとは感知されず、むしろ、黙示録に描写されている(世界の)最終的(終末)ビジョンを確認するための兆候であり、“新しい天地”(の創造)への希望として受け取られている」というのが、その神学的ビジョンだ。

カトリックのイエズス会の機関誌「チビルタ・カトリカ」は、そうした原理主義者たちのビジョンを「予言的」と記す。「米国のキリスト教の価値観に対する脅威と闘いつつ、善と悪、神と悪魔との間における最終的な戦い――“アルマゲドン”によって実現される、間近に迫った正義を待っている」と説明する。こうしたビジョンでは、「あらゆる(和平や対話の)プロセスが、終末の緊急性、敵との最後の決戦を待つという状況の中で、崩れてしまう」のだ。アルマゲドンに向けて、信仰者、信仰を基にした共同体が、戦闘者、戦闘の共同体となっていくからだとする。原理主義者による聖書の解釈を「一方的」として批判する同誌は、そうした解釈が人々の良心を麻痺(まひ)させ、彼らが住む“約束の地”(米国)の国境外で起こる、最も残忍な状況を積極的に支援するようになる」と警告した。

バチカンの公式見解を反映するとされる「チビルタ・カトリカ」の記事を、ここまで読み、三つの疑問が浮かび上がってきた。トランプ米大統領は5月、初の外遊先として選んだサウジアラビア(イスラーム・スンニ派)で、約1100億ドル(約12兆円)に及ぶ武器売却の契約に署名し、その売却理由を「イスラーム国(IS)に加え、イラン(同シーア派)の脅威に直面するサウジアラビアと湾岸地域の安全保障のため」と説明した。トランプ大統領は、今後ともイランを「悪の勢力」(ティラーソン国務長官)と定め、対峙(たいじ)する政策を実行していくのだろうか? イラクでは、人口の主流を占めるシーア派が、米国支持派とイラン支持派に分裂していると報道されている。

中東訪問を終えたトランプ大統領は、バチカンを訪問し、ローマ教皇フランシスコとの懇談後、「教皇の発言を忘れない」と言い残して、同市国を後にした。だが、トランプ大統領が、温暖化対策の国際ルールである「パリ協定」からの離脱を表明したのは、バチカン訪問から1週間後の6月1日だった。トランプ大統領は米国にとって経済的に有利になる新たな温暖化対策ルール以外に、今後も、同大統領の支持基盤であるキリスト教原理主義者の、人間による自然の支配という考えに耳を傾けていくのだろうか? 二つの巨大なハリケーン「ハービー」と「イルマ」が米国に大きな被害をもたらしたが、原理主義者が自身の信仰の教義を見直すことはないのだろうか? そして、最後に、トランプ大統領の北朝鮮問題に関する外交政策に、原理主義者の終末論――正義が最終的な勝利者となる“最後の戦い”(アルマゲドン)――が、どこまで影響を及ぼしていくのだろうか? いずれにせよ、「チビルタ・カトリカ」は、「キリスト教再建主義」「支配者主義神学」の祖師と呼ばれるルーサス・ラッシュドゥーニー牧師(1916―2001)が、「キリスト教原理主義の神権政治ビジョンに大きな影響力を行使」したと分析している。

同牧師の主張は、「国家を聖書に服従させる、神権的な必要性」であり、彼の追随者の一人が「終末論的な地理政治」の支持者である、スティーブン・バノン大統領首席戦略官だったとされる。「イスラーム国の宣伝する神権政治も、間近に迫った終末崇拝を基盤とする」と指摘する「チビルタ・カトリカ」は、キリスト教原理主義の論理が、「イスラームの過激な原理主義と変わりがない」と断定する。