画・花本彰

SATURDAY NIGHT FEVER

白いスーツに身を包み、人差し指を突き上げる決めポーズ――。１９７０年代後半の日本に空前の社会現象を巻き起こした洋画『サタデー・ナイト・フィーバー』は、ディスコが市民権を得たきっかけの一つです。

ジョン・トラボルタ演じるトニー・マネロは、貧しい家庭で、地味な仕事に就き、冴（さ）えない日常を送ります。しかし、土曜の夜になると、着飾ってきらびやかなディスコに赴き、ダンスフロアの中心でキレキレの踊りを披露して、周囲の脚光を浴びます。ディスコが、主人公の承認欲求を満たす場所だったんです。このギャップが民衆を惹（ひ）きつけたのでしょう。

物語や登場人物も楽しみの一つですが、やっぱり、音楽に注目ですよね。今回紹介するのは、この映画のサウンドトラック。全世界で４０００万枚以上売れ、爆発的ヒットとなりました。楽曲の中心は、兄弟トリオのビー・ジーズ。彼らは歌がうまくて、ロマンティックなスローバラードでコーラスがきれいでした。

映画サウンドトラック「SATURDAY NIGHT FEVER」

私はこのグループを映画以前から知っていました。ハーバード大学在学中はマサチューセッツに居たので、ある楽曲に「マサチューセッツに帰ろう」という歌詞があり忘れられません。

しかし、彼らも変わってしまいます。アメリカでは映画以前にも、ディスコブームが来ていて、その流れに乗っていろいろな歌手がディスコ・ミュージックを作るようになりました。本当にいいものじゃなくても、仕組みで売れる時代。アナログレコードに収録されている「STAYIN’ ALIVE」を聴いて、「ビー・ジーズ、お前（まえ）もか！」となりました。それまでのスローバラードで卓越した歌声を生かした音楽から、リズム主体のサウンドに変わったからです。収録曲の一つである「HOW DEEP IS YOUR LOVE（邦題：愛はきらめきの中に）」で、皆さんにもビー・ジーズのスローバラードの良さが分かって頂けると思いますが……。こうしたところを含めて、「HOW DEEP IS YOUR LOVE」「STAYIN’ ALIVE」、そして決めポーズでおなじみの「NIGHT FEVER」の３曲を聴いて頂きたいです。

「A NIGHT AT STUDIO ５４」のレコード

そうして、もう一枚、ディスコのレコードとして紹介したいのが、１９７９年発売の「A NIGHT AT STUDIO ５４」です。ニューヨークの有名なディスコ「スタジオ５４」でヘヴィプレイされていたレコードになります。選曲とミキシングがものすごくて、しびれるんです。いろいろなところでＤＪをした時によく真似（まね）しました。特に、「Ｙ．Ｍ．Ｃ．Ａ」からのつなぎが格好いいんです。「Ｙ．Ｍ．Ｃ．Ａ」は、日本の皆さんにも両手で文字を作るダンスでおなじみですよね。

この「Ｙ．Ｍ．Ｃ．Ａ」は、ゲイをコンセプトにしていたグループのヴィレッジ・ピープルが歌っています。昔は、ファッションにしても、ディスコにしても、感性が豊かで、センスが良いゲイが流行を後押ししていました。

ディスコは踊りだけでなく、社交場でもあります。なんとなく踊って「どこから来たの？」という会話から、知り合いになっていくんです。私にとってのかけがえのない出会いの一つは、「六本木の帝王」とも呼ばれた谷本捷三（しょうぞう）さんです。数十軒のディスコを経営していた方でした。谷本さんとの出会いは、地下２階から１０階までのほとんどがディスコであるスクエアビルのサンバクラブ。ドレスコードがあり、有名芸能人でもジーパンで来たら、追い出されるような店でした。私は、そこのマネジャーが知り合いで、店にいると、谷本さんから話しかけられました。たまたま共通の知り合いが多いことで打ち解け合い、親子のように仲を深めたんです。

谷本さんが創業したニューハーフも働いているショーパブ「六本木金魚」に、よく訪ねました。ステージが凝っていて、舞台が動き、ワイヤーアクションもあり、散水装置もあります。だからこそ、事故が起きないように、年に一回、お経をあげに行きました。谷本さんは２０１１年に亡くなり、その時の葬儀を私が担当しました。泣きながらお経をあげる姿に、参列者の方がびっくりするほどでした。今でも、お店のキャストさん方がお参りにうちの寺を訪れます。

ディスコ世代の人たちには、私と同じように出会いと別れがあるでしょう。ぜひ、曲を聴いて、一緒に当時を思い出しましょう。

プロフィル

とまつ・よしはる　１９５３年、東京都生まれ。慶應義塾大学、大正大学大学院を経て、ハーバード大学神学校で神学修士号取得。現在、浄土宗心光院住職、世界宗教者平和会議（ＷＣＲＰ／ＲｆＰ）日本委員会理事長、浄土宗総合研究所副所長、国際医療福祉大学特任教授を担っている。全日本仏教会理事長、日本宗教連盟理事長などを歴任。趣味は音楽鑑賞（ソウルミュージック）