バチカンから見た世界(147) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

3宗教間の融和なくして中東和平は実現できない(6)―イスラエル・ハマス間戦争後のガザ地区はどうなるのか?―

イスラエルのネタニヤフ政権は、パレスチナ領ガザ地区におけるイスラーム過激派組織ハマスの掃討作戦が長期間にわたると予告し、作戦終了後もイスラエルの安全保障を理由に、ガザ地区におけるパレスチナ自治政府(PNA)の主権を排除し、実効支配を予測させるような発言をしている。

一方、PNAのムハンマド・シュタイエ首相は、バチカン日刊紙「オッセルバトーレ・ロマーノ」に掲載されたインタビューの中で、「ガザ地区は、切り離せないパレスチナ領土の一部である」と主張。戦争終了後のガザ地区に「イスラエル軍の戦車に護衛されて戻ることはしない」と明言し、ハマスによって実効支配されていたとはいえ、「PNAがガザ地区から撤退したことはない」と断言している。

ガザ地区には1万9000人の自治政府の警察官がいるが、ハマスに協力しないように指示し、自宅待機させているという。さらに、1万8000人の自治政府の公務員が勤務し、卒業証書、保険証、パスポートなども、自治政府が発行しているのだ。ガザ地区の公共料金やインフラ、学校、病院などの維持費は、ハマスではなく自治政府によって負担され、同政府は年間で17億米ドルを拠出している。ガザ地区におけるPNAの制度は、「17年前(ハマスによるガザ地区の実効支配の開始と同時)に凍結されたままだが、いつでも再起動できる」と、シュタイエ首相は語る。

ハマスによってイスラエルに対するテロ攻撃が開始された昨年10月7日、自治政府の首相府は、ガザ地区の再建を目的とするタスクフォースを編成し、9億5000万米ドルを拠出したという。また、同日以前、ハマスを含むパレスチナを構成する諸勢力がエジプトのアラ・メインで会議を開き、「われわれの間で、国際社会の前で信ぴょう性があり、国際法を遵守する合意を成立させる」ことについて話し合ったと明らかにした。共通の政治プログラムを樹立し、特に、そのプログラムを実現していくための手段を明確にする会議だった。

インタビューでは、PNAが「民主勢力」であり、ハマスをも含めて、「誰とでも対話する」との確信を表明するシュタイエ首相だが、その対話は「分かち合われ、曖昧ではなく、偽りのない政治プログラムと、そのプログラム(パレスチナ国家の樹立)実現へ向けての手段を明確にする」ものでなければならないとも話す。ハマスは武力闘争を主張し、他の勢力は非暴力のレジスタンスを標榜(ひょうぼう)するが、「自治政府は、政治プログラムを策定していく」のだという。自治政府は、「他の闘争に巻き込まれたり、他者の戦争に引きずり込まれたりするためにガザへ戻ることはない」。パレスチナ国家の樹立を、政治折衝と対話によって実現していくとの誓約なのだ。

とはいえ、当面のところ、シュタイエ首相が知りたいのは、「イスラエルがいつまでガザ地区でのハマス掃討作戦を続けるのか(2024年中は続くと見る同首相)」「イスラエルがガザ地区北部と東部を占領し、パレスチナ領を更に縮小するのか」「南部へと縮小された地域で生活するガザ地区のパレスチナ人が、いつまで耐えられるのか」の三つだ。

聖都エルサレムのラテン(ローマ)系カトリック教会のピエルバッティスタ・ピッツァバッラ大司教(枢機卿)は1月15日、ローマのカトリック大学における新学期の始業式に貴賓として招待され、講演した。同日朝、ピッツァバッラ大司教は、教皇フランシスコと「(イスラエルとハマス間での)可能な対話の道が見いだせるかどうか、そして、少なくとも、より憂慮されるようになってきた、この舵(かじ)取り不能の状況を停止させることができるか」について話し合ったと、大学で待ち受けていた報道関係者たちに語った。

イスラエル・ハマス間戦争の「即刻なる解決策は期待できない」ので、「段階的に和平を求めてゆかなければならない」と主張する枢機卿は、「現在の状況においては、直接に話し合わないイスラエルとハマス間での(意思疎通のための)チャンネルを開設することが先決であり、そのチャンネルを通して、ハマスによって拉致されているイスラエル人の人質の解放と停戦を成立させることによって、最低限の普通状況の回復を図る」ことを提唱した。「武器に解決策を託さないための唯一の道は、外交と政治を通しての折衝以外にない」からだ。

1月18日に始動したと報道された、仏・パリにおける米国、イスラエル、エジプト、カタールの情報機関トップによる、2カ月間の休戦やハマス拘束下にある人質の解放を求めての協議を予告するかのような発言だった。また、ピッツァバッラ枢機卿は、ヨルダン王国の訪問を終えたばかりであり、「パレスチナ人、特に、ガザの住民にとってヨルダン王国は、政治的に、そして、同地区に対する人道支援のための唯一の安定した国であり、ガザへ向けての私たちの救援物資の宛先はヨルダン王国となっている」と発言し、同王国のガザ戦争終結に向けた介入と貢献に期待を寄せている。