内藤麻里子の文芸観察(32)

千葉ともこさんは2020年、『震雷の人』で松本清張賞を受賞してデビューし、第2作となる『戴天(たいてん)』(文藝春秋)が刊行された。両作とも唐代の安禄山の乱を題材にし、前者は地方から、後者は宮廷近くの視線で描く。いずれも盟友3人が登場し、うち一人が女性という特徴がある。彼女たちは混乱する時代にあらがう力を備える。乱世の小説に女性の居場所を確保しようとする志を感じる。

『戴天』は唐の都、長安で幕が開く。幼なじみ3人は強い絆で結ばれていたが、一人は裏切られて陽物を欠き、軍に身を投じた。もう一人は官僚となるが失脚した。3人目は友人の助命を求めた咎(とが)で婢(はしため)に落とされた。彼らは宮廷を毒する佞臣(ねいしん)を誅(ちゅう)せんと雌伏(しふく)する。謀(はか)り事、戦、それぞれの義、民の嘆きなど息もつかさぬ展開がぎっしり詰まっている。

プロフィル

ないとう・まりこ 1959年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部卒。87年に毎日新聞社入社、宇都宮支局などを経て92年から学芸部に。2000年から文芸を担当する。同社編集委員を務め、19年8月に退社。現在は文芸ジャーナリストとして活動する。毎日新聞でコラム「エンタメ小説今月の推し!」(奇数月第1土曜日朝刊)を連載中。

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