内藤麻里子の文芸観察(32)

男たちの世界を描くのに、女の視点や登場人物を配置して新しい風を吹かせた小説が期せずして最近、相次いで刊行された。今回はいつもと趣向を変え、その3作を紹介しよう。

仁志耕一郎さんの『咲かせて三升(みます)の團十郎』(新潮社)は、七代目市川團十郎の生涯を描いた。「助六」「暫(しばらく)」などお家芸「歌舞伎十八番」を定めたり、天保の改革のあおりを受け江戸十里四方追放の刑に処せられたりした歌舞伎役者だ。わずか10歳で團十郎を襲名し、波乱の生涯が始まるが、何が面白いと言って、七代目を取り巻く女たちである。

後妻に迎えた辰巳(たつみ)芸者、旅興行先のしがらみで抱えた妾(めかけ)2人、先妻との間の娘に、三代目坂東三津五郎の後妻。彼女らは團十郎の歩みを進めもするし、大きな禍(わざわい)にもなる。

歌舞伎の芸道小説と、女たちによる家庭小説が両輪として進んでいくが、芸道を妨げる女難と言ったところか。しかし、その女難をどうすることもできないのが人生の悲哀なのだ。

【次ページ:永井紗耶子さん『女人入眼』】