バチカンから見た世界(119) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
世界に対峙の構造を生むウクライナ戦争
ローマ教皇フランシスコは4月2、3の両日、地中海中央部のマルタを訪れた。2日の到着後、政府関係者や同国の外交団に向かい、『マルタ島に吹く四方位からの風』と題してスピーチした。
この中で、教皇は、「東から吹く風」とは太陽が昇る欧州東部から、「戦争という暗黒」が迫ってきたことの意と発言。他国への軍事侵攻、残酷な市街戦、核兵器使用の脅威などは遠い過去にある暗黒の記憶だと考えられていたが、現在、死、破壊、憎悪を運んでくる凍(い)てつく戦争の風として、多くの人々の日常生活に容赦なく吹き付けていると述べた。
さらに、愛国主義を標榜(ひょうぼう)する自国の利益のみを追い求める時代錯誤の欲求に幽閉された強権者が、紛争を起こし、扇動していると指摘。「一般の人々は、他者と共にあってこそ構築できる未来の必要性を感じている」と訴えた。
ウクライナから吹いてくる風は、世代を超えた全ての人々を窒息させ得る“拡大された冷戦”の危険性を持つと教皇は言う。専制主義という誘惑、新しい形の帝国主義、蔓延(まんえん)する攻撃的な兆候、(諸国民間をつなぐ)橋の構築に対する無能といった現象が、戦争というかたちで噴出してきていると語った。
その結果、「平和の論理に沿って考えることが困難となり、戦争の論理に慣れてしまった」と、教皇は指摘する。こうした背景には、「第二次世界大戦後の平和への意志の薄れ」があり、またしても、人類は軍備増強や武器の取り引きに多額を投じて、「何年もかけて(ウクライナでの)戦争を準備する」といった状況があったと述べた。こうした世界的な問題を解決するには、国際的な取り組みが必要であると強調し、「常に拡大されていく対話」「国際的な平和会議」「軍縮会議」を通して、「兵器の発展に費やされる資金が、本来あるべき医療提供や食料問題の解決に還元されるように」と願った。