バチカンから見た世界(114) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

世界の現状に対しては、「神からの贈り物(地球)に対する個人的、集団的責任としての奉仕(stewardship)という概念が、社会、経済、環境の持続性へ向けての生命力に満ちた出発点」となるが、「われわれは、逆方向に走ってしまった」とし、「私たちは、未来の世代が払う代価を無視して、自身の利益を最優先させてしまった」と自戒の弁を記した。一時的な富の蓄積ばかりに関心を向け、「自然の恩恵を含めた長期にわたって運営されるべき(地球からの)資産を、(人間の)短期的な利益のために使って枯渇させてしまった」ことへの反省だ。

その上で、技術革新を実現しながらも、際限のない富の蓄積に走り、「他の国民や地球の限界に対する考慮を怠った」現代人の責任を指摘し、「今こそ心を改め、解決策を探すために、これまでと反対の方向へと歩むべき時」と戒めを込めて改善への行動を強調している。また、現在の気候危機は、種の多様性の喪失、環境破壊といった「厳しい正義(正しい行い)」に人類を直面させているが、それは、「私たちの行いが招いた避けられない結果」であり、地球が持続的に生産・吸収できる生態系の機能を超えて、貪欲に資源を消費したためであると示した。ただし、こうした地球の持続可能性を超えた資源の乱用で、「最も悲劇的な結果を被るのは、気候変動の原因に最も加担していない貧しき人々である」と述べ、「私たちの神は正義の神であり、自身の創造を良しとされ、人間を神の似姿として創造されたのであるから、私たちは貧者の悲鳴に耳を傾けなければならない」と訴えている。

メッセージではさらに、ここ数カ月間の異常気象、それが引き起こす自然災害に触れ、「気候変動は、未来に向けて挑戦する問題ではなく、(人類の)生存に関わる、現時点で対処しなければならない喫緊の課題である」とし、「われわれが今、神の協力者(steward)として、世界の保全のための責任を取らない限り、現代の子供たち、10代の若者が悲劇的な結果に直面することになる」と警告する。また、健康(保健)、環境、食糧、経済、社会といった各分野は相互に関連しており、それぞれに危機を抱えている人類が「いかに弱く、苦悩にさらされているか」と現代の状況を考察し、「こうした危機が、われわれに選択を迫っている」と指摘。人類は、「(これまでのように)近視眼的な利益を求めるのか、この危機を改心と変革の時としていくか」を迫られており、「人類を一つの家族として考え、共通善(公共の利益)を基に未来のために共に協力していくなら、われわれは今とは違った世界に生きることができる」と説き示した。

今回のメッセージでキリスト教の最高指導者たちは、「人類全体の利益の選択、われわれの全未来を守るための短期間の犠牲、正義にかなう持続性のある経済への移行」を訴えた。「3人が(史上)初めて緊急に合同声明文を発表しなければならなかった」理由として、「地球環境の持続性に関わる問題の緊急性、その問題がもたらし続ける貧者への被害の大きさ、そして、(解決に向けた)世界レベルでの協力の重要性」を挙げ、「一人ひとりのキリスト教徒、信仰者と善意の人の心、良心に語りかける」ためだったと記している。