バチカンから見た世界(5) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

大統領令に対するキリスト教諸教会の姿勢

トランプ米大統領は1月27日、国家の安全保障とテロ対策を理由に、中東とアフリカのイスラームを主流とする7カ国の国民の入国を一時禁止する大統領令に署名した。シリアからの難民の受け入れを停止し、他の難民の受け入れを一時禁止する内容も含まれている。

これに対し、連邦控訴裁判所が下級審の判決を支持し、大統領令の一時差し止めを認める司法判断を下した。一方、大統領令の署名直後から、米国を中心とする世界の諸宗教者、特に、キリスト教諸教会から非難の声が多く上がっている。米国のカトリック司教たちはこの問題に対して連帯を深め、大統領令を「Muslim ban(ムスリム入国禁止令)」と評すとともに、「破壊的」「大混乱」「残忍」といった強い表現を用いて抗議してきた。

その一人、シカゴ大司教のブレーズ・J・キュピック枢機卿は、現在を「米国史における暗黒の時」との懸念を表明。「難民を拒否し、暴力、抑圧、迫害を逃れる者、特に、ムスリムに対して我々の国の門戸を閉ざすことは、カトリック教会と米国国家双方の価値観に反する」と指摘している。また、サンディエゴのロバート・マッケルロイ司教は、「国家の遺産を放棄し、われわれの主(キリスト)と聖家族が政府(ローマ帝国)の抑圧から逃れた難民であったという事実を忘れた大統領の行動によって、自由の女神は今週、掲げていた炎を下げた」と象徴的に表現し、大統領の姿勢を批判した。

米国カトリック司教会議は、大統領の行動に反対するとともに「神の民」(難民)の擁護を通して、カトリック教会の全信徒に、人間の尊厳の擁護を呼びかけた聖職者の取り組みを改めて支持。キリスト教徒とムスリムは、愛徳と正義という揺るぎない絆に支えられており、「カトリック教会は、無慈悲な迫害者によって苦しめられる、あらゆる信仰者を擁護していく」方針だからだ。その上で、「『イスラーム国』(IS)や他の過激派から逃れる人々は、平和と自由のために全てを犠牲にした」ことを強く訴えている。

諸宗教者で構成する米国の『諸宗教移民連合』のメンバー約2000人は、米国議会議長と議員宛てに抗議の書簡を送付。「われわれは、それぞれの聖典と宗教伝統によって、隣人を愛し、より弱き人々に寄り添い、異国の人々を喜んで受け入れるように促されている」とし、「国籍と宗教によって難民を選定することは、米国の建国の精神に反する」との見解を示した。

このほか、米国ユダヤ教3派の指導者と信徒が、大統領令に抗議するデモを展開。ルーテル世界連盟(LWF)、世界教会協議会(WCC)、「アクト・アライアンス」(キリスト教系国際援助組織、本部・ジュネーブ)は、「われわれの信仰が、全てのキリスト教徒に対して、異国の人々、難民、国内移住者を愛し、歓迎するようにと促している」との声明を発表し、米大統領令を厳しく非難している。