バチカンから見た世界(65) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

政治家の和平と宗教者の和平――朝鮮半島

南アフリカの故ネルソン・マンデラ元大統領の生誕100年を記念する式典がその誕生日の前日である7月17日、ヨハネスブルクで行われ、米国のオバマ前大統領が講演した。18日付の共同通信(電子版)は、この中でオバマ氏が、世界の現状を「奇妙で不確かな」時代と評し、「『恐怖や恨み』をあおるような政治状況に強い危機感を表明した」と伝える。

オバマ氏の世界の政治情勢に対する分析は、欧米諸国で、大衆の欲望や不安をあおって権力を維持しようとするポピュリズムが台頭し、そうした政治家や政党が政権を得ていることへの警鐘として受け取れる。欧州連合(EU)創始国の一国であるイタリアでも、「同盟」と「五つ星運動」を軸とするポピュリストの政権が誕生。オーストリアからハンガリー、ポーランドを中心とする、かつての東欧圏へ至る諸国との間で、「ポピュリスト政権国際連盟」とも言える動きが出始め、イタリアのポピュリスト政権を支持する米国のトランプ大統領、EUや北大西洋条約機構(NATO)に揺さぶりを掛けている。

EUの中核を成すフランス、ドイツでも同様だ。フランスのマクロン大統領は移民・難民問題を中心に、ポピュリズム政党の国民連合(RN/旧・国民戦線)の台頭を恐れながら政策を実行している。ドイツのメルケル政権は先頃、移民・難民問題を巡って、ポピュリズム政党のキリスト教社会同盟(CSU)によって分裂・連立崩壊の危機に陥れられた。EUとぶつかるトランプ政権と反EUの欧州ポピュリズム諸政党が連携するようになれば、「自国至上主義」を掲げる政治勢力の“世界連盟”が出来上がることになる。

ポピュリストは、民衆の不安や恐怖をあおって選挙で勝利し、政権の座を確保するために選挙公約を「即、実現する」ことに全力を注ぐ。選挙公約が、国家にとって重要であるか、将来にわたってどういう意味を持つかについては顧みられない。次の選挙に勝つことを最大の目的とし、国際問題に関しては、選挙公約の「即実現」が難しい、複雑で長期間にわたる多国間交渉を避け、すぐに結論が出せる二国間交渉を選ぶ。それ故、彼らの非難の矛先は、国連をはじめEUやNATOに向けられるのだ。