バチカンから見た世界(51) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

核軍縮と廃絶のみが核の抑止力――バチカン

米国のトランプ政権は2月2日、今後の核政策の指針となる核戦略見直し(NPR)を発表した。潜水艦から発射される弾道ミサイル(SLBM)に搭載される小型核兵器や、水上艦、潜水艦から発射できる新型の核巡航ミサイルの開発を骨子とするものだ。外国からの通常兵器による攻撃に対しても核兵器で反撃することを排除しない方針も打ち出した。

米政府は、北朝鮮やイランの核開発、ロシアや中国の核兵器の増強など「広範な脅威」に対するものと説明。「米国や同盟国に対する攻撃への抑止力を高める」(トランプ大統領)ことを目的とした戦略と位置づけられている。

だが、マティス米国防長官による「この戦略は、特にロシアの軍事力の強化と、同国の外交政策、戦略に対応するもの」との発言は、過去に克服されたと信じられていた「冷戦」の回帰を懸念させるものになった。いずれにせよ、「核なき世界」に向けて、核軍縮を主導しようと試みたオバマ前政権の政策から、反対方向へ舵(かじ)を切る政策転換であることは確かだ。

バチカンは、同日刊紙「オッセルバトーレ・ロマーノ」にトランプ政権による核戦略の見直しを報道し、分析と論評記事を通じて真っ向から反対する立場を示した。2月4日付の同紙は、『ワシントンが核を再始動』と題する記事を掲載。米国の核戦略が「地上から発射される大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦から発射される巡航ミサイル(SLCM)、戦略爆撃機からの投下によるものを、3本柱にすることになった」としながら、「欧州に配備されている米国の150の核弾頭の多くが、爆発力を抑えつつ潜水艦に搭載されることになる」と報じた。