バチカンから見た世界(45) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

エルサレムの嵐――トランプ大統領の宣言の波紋

トランプ米大統領は12月6日、エルサレムをイスラエルの首都として承認する宣言文に署名し、国務省に対してテルアビブにある同国大使館をエルサレムに移転させる手続きの開始を指示した。

ユダヤ教、キリスト教、イスラーム教の3宗教の聖地であるエルサレムは、1947年の国連パレスチナ分割決議により、国連管理下の国際都市と定められた。しかし、イスラエルの建国によって起こった第1次中東戦争の結果、東エルサレムはヨルダンが、西はイスラエルが制圧。イスラエルは第3次中東戦争で東エルサレムを含めたパレスチナ全土を占領し、国連決議を無視してエルサレムを首都にすると宣言した。一方、国際社会はこれを承認せず、各国は大使館をテルアビブに置いてきた。米国がエルサレムをイスラエルの首都として承認するという事態は、大統領の署名前から国際ニュースとして各国で報じられ、世界の宗教界、特に、イスラームとキリスト教界で、さらに国際社会の外交の舞台で、非難と抗議の声が燎原(りょうげん)の火のごとく広がった。

トランプ大統領は事前に、パレスチナ自治政府のアッバス議長に電話連絡し、米国大使館をエルサレムに移転させる意向を通達。これに対し、同議長は、米国大使館のエルサレムへの移転が「中東和平プロセス、中東地域と世界の安全を危険に陥れる」と警告し、抗議した。電話会談を終えたアッバス議長は即刻、ロシアのプーチン大統領に電話を入れ、「エルサレムと、危険にさらされているイスラームとキリスト教の聖地を守るため、速やかな行動の必要性」を訴えた。同議長は、ローマ教皇フランシスコにも電話し、同様の憂慮を伝達している。

トランプ大統領の署名に対し、パレスチナ当局は「怒りの3日間」と表した抗議活動をヨルダン川西岸で実施。トルコのエルドアン大統領は、トランプ大統領の一連の行動について、「ムスリム(イスラーム教徒)にとって、超えてはならない一線だ」とし、「イスラエルとの断交」も辞さない意思を表明した。アラブ連盟のアフマド・アブルゲイト事務局長は、米大統領に「エルサレムの法的、政治的位置付けを変えるようなイニシアチブを避けるように」と呼び掛け、再考を促している。ヨルダンのアブドラ国王は、トランプ大統領のイニシアチブが中東の安全保障と安定に重大な影響を及ぼすと懸念を示し、「米国による中東和平プロセスの再開に向けた努力を危険に陥れ、イスラームやキリスト教を信仰するパレスチナ人の感情に火を付けるもの」と警告した。

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