バチカンから見た世界(41) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

核兵器禁止条約は一条の光明――ヒバクシャと教皇

11月10、11の両日、バチカンのシノドスホールで『核兵器から解放された世界と包括的軍縮のための展望』と題する国際会議が開催された。主催は、バチカンの「人間開発のための部署」。国際原子力機関(IAEA)のモハメド・エルバラダイ前事務局長ら歴代のノーベル平和賞受賞者、中満泉国連事務次長・軍縮担当上級代表ら国連関係者、NATO関係者、米国、ロシア、韓国、イランなどの外交代表、研究者、市民活動の代表、諸宗教関係者ら約200人が参加した。

会議は、同部署のピーター・コドボ・アピア・タークソン枢機卿の歓迎の辞に続き、バチカン国務省長官のピエトロ・パロリン枢機卿が会議のテーマに沿って基調講演。核兵器だけでなく、平和に向けた議論が広く行われることを期待すると述べた。この後、『核兵器禁止の条件としての人道的イニシアチブ』『貧困との闘いと核軍縮』『国際外交と国際安全保障問題』といったテーマについて発題と討議が重ねられた。

第2部では、『核兵器から解放された世界への展望』について分析。「今日における核戦争の危険性」「国連での核兵器禁止条約交渉会議」「科学者の社会的・道徳的責任」などに関する発表が続いた。第3部は、『包括的軍縮』をテーマとし、「通常兵器」「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)による達成がNGOの将来の活動に与える影響」「諸国民間における対話と軍縮の展望」「和解と軍縮」について考察がなされた。『教会、市民社会、国際機関』をテーマとする第4部では、「教会の役割」「市民社会の役割」「国際外交と国際機関の役割」を議論。第5部は『地政学的側面、核兵器の人道的影響、平和への道程、そして、証』をテーマに、「中東状況」「核の抑止力を超える」「移民と戦争」「原爆からの生存」「広島の遺産と市の再建に果たす企業の役割」について意見を交わした。

この中の「証」に関しては、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の和田征子事務局次長が、母親の被爆による惨状を証として発表。核兵器は「無差別に殺傷し、長年にわたって被害をもたらす非人道的な兵器」と非難し、国連で採択された核兵器禁止条約を「被爆者にとって大きな喜び」であり、「一筋の光」と評した。核保有国や、日本のように核の傘の下にある国が、核兵器禁止条約に署名し、批准するようにと訴えた。

会議の参加者は10日、ローマ教皇フランシスコに謁見(えっけん)。席上、教皇は、核兵器を保有する理由が紛争当事者間のみならず、人類全体を巻き込む恐怖の論理に依拠しているが、「人類そのものを破壊する兵器は、軍事的にも非合理である」と指摘した。さらに、大量破壊兵器、特に核兵器は人々に「偽りの安心感」を与え、「人類家族が平和的に共存する基盤となり得ない」と非難。広島と長崎の“ヒバクシャ”の証言は人類にとってかけがえのない教訓であり、その声に耳を傾ける大切さを強調した。その上で、ヒバクシャの証が大きな役割を果たした、核兵器禁止条約の採択を「希望の光」として高く評価した。

ローマ教皇に謁見したノーベル平和賞受賞者や国連関係者ら(©バチカン日刊紙「オッセルバトーレ・ロマーノ」)

教皇に謁見したエルバラダイIAEA前事務局長らノーベル平和賞受賞者や国連関係者たちは、教皇に宛てた声明文を発表した。この中で「核保有国の不参加にもかかわらず、核兵器禁止条約が採択されたことは、核兵器から解放された世界へ向けての一歩」であり、「市民社会、諸宗教共同体、国際機関の協調した活動の成果」と強調。「世界に持続的な平和を保障し、核兵器の拡散と使用を防止する唯一の道は、廃絶することだ」との単純明快な見解を述べている。また、ICANのベアトリス・フィン事務局長は、教皇に「核兵器廃絶のために、世界中の教会で祈りを捧げてほしい」と要請したことを明らかにした。