気づきを楽しむ――タイの大地で深呼吸(8) 写真・文 浦崎雅代(翻訳家)
共に暮らす、友と暮らす――ライトハウスの仲間たち
夫婦で大学講師を辞めて、瞑想(めいそう)修行場&農場である“ライトハウス”に移住して2年が経つ。息子も3歳半になり、元気に村の幼稚園へ通っている。「養鶏場の鶏ではなく、自由に成長する森のニワトリになりたい」。そう話す夫と共に、ここにやってきた。以前に比べ、現金収入は微々たるものになった。だが、野菜を作り、自給のオフグリッド発電や手作りの家を手掛ける――夫は、今では真っ黒な顔をしたニワトリになりつつある。
ライトハウスには、私たち家族以外にも多くの方が滞在している。オーナーは、エーさんという女性。彼女は、タイの伝統菓子「ルークチュップ」を製造販売するビジネスウーマン。と同時に、私財を投じてこの場を創(つく)り、仏教を通じていろいろな方との縁をつなぐNPO「善徳の友の会」の代表も務めている。まさに菩薩のような女性である。
彼女の“右腕”となっているのが、小柄で愛嬌(あいきょう)のある笑顔が魅力的なスティンさん。彼は介護職から土木建築まで何でもこなす縁の下の力持ちだ。奥さんのスピアップさんもゲストハウスのメンテナンスや食事作りを行い、家族ぐるみでオーナーを支えている。70歳のピアックおばさんは、経理を預かってきたしっかり者。80歳を超えたパイおばあさんは認知症で、ご飯を食べたことを何度も忘れてしまう。食事作りのリーダーは、優しく情に厚いピットおばさん。夫のチューンおじさんは真面目で、広い敷地内の草刈りをしたり車の運転をしたりと、これまたマルチに活躍する。
長期滞在の方もいる。チェンマイから瞑想修行に来ている華奢(きゃしゃ)な女性のポーさんは、もう1年以上ここにいる。一人娘との折り合いが悪くなったのをきっかけに、バンコクから修行に来られたエおばさんも、1カ月以上前から滞在中だ。
そしてお坊さま。今年の安居(あんご)は僧籍の一番長いノース師を筆頭に6人のお坊さまたちが修行に専念している。安居中は瞑想合宿も多いので、その指導もされる。合宿はタイ人だけではなく、中国人も増えている。日本人の訪問者も時折やってきて、日本の風を届けてくれる。
さまざまな人が、それぞれに必要とする時間と空間を提供しているのがライトハウス。どんな過去があるのかと、必要以上に詮索(せんさく)することはない。しかし、体調を崩したり、何かしらのピンチに陥ったりしたら、すっと誰かがやさしく手を差し伸べる。苦しみが生じたら助け合う。それが自然と身についている人たちだ。
皆が一つの家族という強い結束力があるわけでもなく、適度な距離がある。だが、そのゆるさが心地いい。ブッダが大切にされたという「善き友」。苦しみを持つ同じ人間として、共に生きる善友たち。そんな友達と、私は今、ここで生きている。
プロフィル
うらさき・まさよ 翻訳家。1972年、沖縄生まれ。東京工業大学大学院博士課程修了。大学在学中からタイ仏教や開発僧について研究し、その後タイのチュラロンコン大学に留学した。現在はタイ東北部ナコンラーチャシーマー県でタイ人の夫と息子の3人で生活している。note(https://note.mu/urasakimasayo)にて毎朝タイ仏教の説法を翻訳し発信している。