共生へ――現代に伝える神道のこころ(24) 写真・文 藤本頼生(國學院大學神道文化学部教授)
古来、災禍を祓うために供えられたゆかりある各地の銘菓に目を向けて
節分も過ぎると、次は五節供(ごせっく)の二番目「上巳(じょうし)の節供」、つまり三月三日の雛(ひな)祭りの季節を迎える。この雛祭りには、古い形式の一つとして、旧暦三月三日に紙を人のかたちに切った「形代(かたしろ)」に身の穢(けが)れを託し、川や海に流すという「流しびな」の風習がある。現在も鳥取県東部の旧八頭郡用瀬町(現鳥取市)にて、藁(わら)を丸く編んだ「桟俵(さんだわら)」に男女一対の紙雛を乗せて、千代川へと流す民俗行事として継承されており、その原型は平安時代にまでさかのぼる。こうした人形に身の穢れを託して流すという事象は、神社神道では六月三十日、十二月三十一日に半年ごとの罪や穢れを祓(はら)うために斎行する「大祓(おおはらえ)」行事にも通ずる。また、五節供の日に神を迎え、供え物を捧げて災禍を祓うことは、古くから宮中の行事に取り入れられており、『源氏物語』や『枕草子』にもそうした記述をうかがうことができる。
雛祭りといえば、「草餅の節供」という言葉もあるように、雛壇に飾りつけられる雅(みやび)な雛人形はもとより、草餅(蓬餅=よもぎもち)や菱餅、ひなあられなど餅や菓子がつきものだ。雛節供の菓子や餅は地方によりさまざまな種類があり、関東のポン菓子に対して関西の丸いあられは著名だが、岩手県の「花饅頭(はなまんじゅう)」や福島県の「いらご餅」をはじめ、前出の鳥取県東部ではおこしに近い形の「おいり」、九州北部に多い「ふつ餅」など地方色豊かな餅や饅頭も多い。