利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(64) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)
画・国井 節
日本の命運がかかる参議院選挙
7月に参議院選挙が予定されている。メディアの報道量が少なく、まだ意識していない人が多いようだが、この選挙には日本の運命がかかっている。昨年の衆議院選挙に比して野党間の協力が弱体化していて与党の勝利が予想されており、衆議院に続き、参議院の3分の2以上を改憲に前向きな政党が占める可能性が大きい。首相が4年間衆議院を解散しなければ、今後3年間は国政選挙がないかもしれない。そうなった場合、この間に戦後日本の平和主義的な理念や方針がなくなり、日本は戦争を行う国家へと変わっていくことを覚悟しておかなければならないだろう。
選挙の3大思想的論点
この連載で述べてきた「徳義共生主義」(コミュニタリアニズム)という倫理的思想から、選挙の論点を挙げておこう。
第一に、政治の基礎にあるべきなのは、倫理性・道徳性のような徳義の感覚である。安倍政権以来、国政に政治腐敗や虚偽、改竄(かいざん)などの疑惑が絶えず生じており、最近も衆議院議長のセクハラ疑惑、議員買収疑惑や自民党議員(離党)の女性問題が表面化した。立憲主義的野党は内閣や衆議院議長に不信任案を、また、元自民党議員に辞職勧告案を提出したが、いずれも否決された。このような政治的な汚濁を浄化すべきなのかどうか。
第二に、経済問題が深刻になっていて、「アベノミクス」と言われた超金融緩和路線に固執する結果、急激な円安と物価高のために人々の生活が逼迫(ひっぱく)しつつある。過去数年間の政治腐敗問題においては、疑惑が表面化された際に、権力周辺の一部の人々が私益を得ていたにしても、一般の人々の生活には大きな影響はないという政権擁護論があった。ところが、後述するように、今や人々の生活(民生)そのものが深刻なダメージを受けているのである。この原因はどこにあって、どのように解決すべきなのだろうか。これは、「超金融緩和経済」と「生活重視経済」という経済的対立と言えよう。
第三に、平和問題では、改憲や軍事化への動きが急になっており、国家の理念そのものが問われている。ロシアのウクライナ侵攻によって人々の生命が日々失われており、戦争の長期化や核戦争の危機が生じている。そのような「文明の衝突」が日本周辺にも押し寄せて、日本自体にも軍事的危機が生じかねない。自民党からは軍事費倍増や(反撃能力という名称に変更して)敵基地攻撃能力の所有を求める声が強まっている。それに抗して、先月(第63回)に書いたような「和の国」としての平和主義的理念を守り、周辺諸国との対話と共生を追求し続けるのかどうか。以上をまとめて言えば、与野党の争点は「非倫理的政治・超金融緩和経済・軍拡」対「倫理的政治・生活重視経済・平和」に集約されるだろう。