共生へ――現代に伝える神道のこころ(9) 写真・文 藤本頼生(國學院大學神道文化学部准教授)

古代の住居から発展 神社の本殿形式

神社建築、寺院建築などと称されるものには、それぞれ特色を持った建物がある。神社建築では本殿や拝殿、幣殿(へいでん)、神楽殿(かぐらでん)、鳥居などであり、寺院建築には五重塔や多宝塔、金堂、講堂、山門などがある。これらは神社・寺院それぞれの構成要素となっている。神社の場合は、本殿が神の住居でもあるだけに、祀られる神の特性や地方色なども加味され、各地の古民家などと同様、独特な様式が生み出されてきたケースもある。

また、神社の本殿は、伊勢神宮のように20年に一度、式年造替遷宮(しきねんぞうたいせんぐう)がなされながらも、「唯一神明造(ゆいいつしんめいづくり)」と呼ばれる社殿そのものの建築形式が1300年にわたってほぼ原型を変えることなく、現代に継承されてきたようなケースもある。しかしながら、神社の本殿の建築形式の中には、仏教的な造型からの影響を全く受けていないというわけではなく、古式が保持されて寺院建築の色彩が一部分に限定されるものや、逆に、寺院建築の影響を濃厚に受けてきたものもある。反りのついた曲面の屋根や丹塗(にぬ)りの建築などがその一例として挙げられるが、こうした点について述べる前にまず、本殿形式の種類について少し述べておかねばならないだろう。

神社の本殿形式は、大きく二種類に分けられる。古代の住居から発展したとされる「妻入(つまいり)」形式の本殿と、穀物を収める倉庫から発展した「平入(ひらいり)」形式の本殿である。

この妻入形式と平入形式の一番の差異は、屋根の向きと建物の入り口の位置にある。屋根の平らな面の部分にあたる「平」側の屋根の下に入り口があるのが平入形式で、屋根の端の三角に見える「妻入」の側の下に入り口があるのが妻入形式である。平入形式で最も著名な神社本殿の建築様式は、流造(ながれづくり)と呼ばれる様式である。流造は全国各地の神社で用いられている形式で、神社に祀られる祭神などに関係なく、神社本殿の中で最もポピュラーな様式だ。大正期に明治神宮の本殿を建てる際にも、どのような本殿形式を採用するか、あるいは新例として独自形式にするかなどの議論があったが、奇抜にするのではなく、むしろ我が国で最も多く採用されている本殿形式である流造を用いるべきという意見で採用された経緯がある。

神社の歴史の中でも、古い時代の社殿形式を伝えるものとして知られるのが、伊勢神宮と出雲大社、住吉大社である。伊勢神宮に代表される神明造は平入形式、出雲大社の大社造と住吉大社の住吉造は妻入形式であるが、いずれも仏教伝来以前からの形式で寺院建築の様式をほとんど受容していないと考えられている。

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