共生へ――現代に伝える神道のこころ(7) 写真・文 藤本頼生(國學院大學神道文化学部准教授)

越谷地域一帯の総鎮守とされる久伊豆神社。境内にある修道館を住民に開放するなど、宗教活動だけにとどまらず、さまざまな社会貢献活動を展開している(写真は久伊豆神社提供)

元気な子供の声が聞こえてくる 鎮守の森・神社での「人間教育」

埼玉県越谷市越ヶ谷に大国主命(おおくにぬしのみこと)、言代主命(ことしろぬしのみこと)を主祭神としてお祀(まつ)りする久伊豆(ひさいず)神社という古社がある。創建時期は不詳とされるが、平安中期以降から旧武蔵北部を中心に、武士や庶民の信仰を集めてきた社(やしろ)である。境内の片隅には「平田篤胤仮寓跡(ひらたあつたねかぐうあと)」と呼ばれる旧跡や篤胤奉納の大絵馬があることで知られ、国学者の平田篤胤とも由縁の深い社でもある。現・越谷市の中核となった旧・四丁野村、越ケ谷宿、大沢町、瓦曽根(かわらぞね)町、神明下村、谷中村、花田村の七カ所の鎮守の社として知られている。加えて八方除(はっぽうよけ)、除災招福の霊験あらたかな神社として有名で、祈願のために関東一円のみならず、遠方から参詣する崇敬者も多い。

同社では、地震などの大規模災害や非常時に電気・水道といったライフラインがストップした際、境内で汲(く)み上げている御霊水を利用して地域の人々の救援ができるように、小電力発電装置を設置して災害時に備えている。また、境内には修道館と呼ばれる武道場があり、空手道の稽古場として利用され、体操教室なども行われている。加えて平日の午後は地域の未就学児とその保護者らに開放しており、地域の子育て支援にも一役買っている。

久伊豆神社の御霊水は、地下250~300メートルの深層から汲み上げられている。自家発電機も備えており、災害時には地域の生活用水として活用できる(久伊豆神社提供)

さらには、約30年にわたって小教院と称した勉強会を開催。『古事記』や『日本書紀』を繙(ひもと)きながら、毎月一回、氏子らと日本の神々や国柄について学ぶ機会を設けている。同社は地域の生涯学習、社会教育の場としても、氏子らに好評を博してきた経緯がある。こうした久伊豆神社の諸活動の事例は、今後の神社が地域の人々と共にある姿の一つでもあり、神社が行うべき社会貢献活動の一端を示しているとも考えている。

同社のように、神社としての活動の第一である祭祀(さいし)や祭礼、祈禱(きとう)等を中心とした宗教活動を行いながら、地域住民に対しても種々の社会貢献活動を行っている神社は全国に数多く見受けられる。庄本光政と渋川謙一の両氏による共著『改訂・神道教化概説』(神社新報社)には、神社の行う対社会活動の一つとして、社会福祉事業が掲げられ、「氏子区内に一人の不幸な人もをらぬようにといふのが、氏神様の念願に他ならず、神職の毎日の祈願の一つもまさにそこにある」という考え方が記されている。また、神社界の社会福祉施設として、境内地を利用した児童遊園、保育所、児童館が第一に掲げられている。

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