現代を見つめて(49) 応援 文・石井光太(作家)

応援

「年末に店をオープンしてようやく軌道に乗ったと思ったら、いきなり新型コロナウイルスの流行で閉店の危機に陥りました。なんとか家賃の一部でも稼ごうとしてテイクアウトをはじめたところ、驚いたことにたくさんの人が“応援”と称して買いに来てくれました。一人暮らしの人まで、『騒動が収まるまで支えるから』って言って、食べきれないほど買ってくれたんです」

東京の郊外にある居酒屋の店主の言葉だ。

振り返れば、二〇一一年に起きた東日本大震災の後、日本では「絆」という言葉に表されるように、人と人のつながりを大切にしようという動きが広まった。年齢、地域、業種の壁を超えて手を取り合って生きていくことの素晴らしさが、くり返し説かれた。

ところが、ここ数年いつの間にか、日本社会では真逆の個人主義や合理主義が主流になりつつあった。職場の飲み会への誘いを「パワハラ」と捉え、新商品を買うよりフリーマーケットアプリを使って中古品を手に入れた方が「合理的」だとし、結婚式や葬儀を「金の無駄遣い」と考える風潮があった。

だが、新型コロナウイルスの流行によって、こうした風向きが少しずつ変わりつつある。

仕事仲間や友人たちの間で、インターネットを利用した「ウェブ飲み会」がはやっている。全国の書店が閉店を余儀なくされる中で、四月刊の新刊を応援しようと「#2020年4月刊応援」という運動が広まった。相次ぐイベントの規制により、結婚式や葬儀を熱望する声も高まっているという。

先の店主は言う。

「今回、地域の人々に助けられたことで、個人事業主だって独力でやっているわけではなく、社会のつながりの中で成り立っているんだという思いが膨らみました。別の店主も同じことを思い、仕入先が倒産しそうだと聞いて、必要以上に品物を買ってあげて、それで作ったお弁当を児童養護施設に寄付しています」

新型コロナウイルスによって私たちは多くのものを失った代わりに、“人と人との関係の中で自分がある”ことを再確認できるようになった。

願わくば、災害が起こる度にこのことを思い出すのではなく、常にそれを胸にとどめて生きていきたいと思う。

プロフィル

いしい・こうた 1977年、東京生まれ。国内外の貧困、医療、戦争、災害、事件などをテーマに取材し、執筆活動を続ける。『アジアにこぼれた涙』(文春文庫)、『祈りの現場』(サンガ)、『「鬼畜」の家』(新潮社)、『43回の殺意――川崎中1男子生徒殺害事件の深層』(双葉社)、『原爆 広島を復興させた人びと』(集英社)など著書多数。