『現代を見つめて』(3) 文・石井光太(作家)

日本社会の割れ目

厚生労働省の発表では、日本には六千人から八千人ほどのホームレスがいるそうだ。ただ、現実的にはマンガ喫茶やドヤを転々とする人も多数いるため、その数はかなり増えると見られている。

私はこれまでホームレスの取材を何度かしたが、一度も外国人のホームレスに会ったことがない。地域に詳しい人に尋ねても、みな「外国人はいないなぁ」と声をそろえる。

日本では相対貧困率の上昇が問題視されているが、出稼ぎ労働者をはじめとする外国人の貧困も大きな課題だ。なぜ日本人のホームレスがあれだけいて、外国人はほとんどいないのか。

長年、首都圏でホームレス支援をしている韓国人教会の職員に話をうかがった時、こんなことを言われた。

「外国人ホームレスが少ない理由は二つです。一つは日本の生活に困って外国へ帰るケース。もう一つが外国人コミュニティーに支えられているケースです。実際は後者の方が圧倒的に多いはずです」

外国人には、それぞれコミュニティーがある。フィリピン人ならフィリピン人、ペルー人ならペルー人、イラン人ならイラン人とそれぞれのグループがあり、彼らはその中で助け合って暮らしているのだ。

誰かが住む所を失えばアパートに住まわせてあげる、病気で倒れれば仲間で看病してあげる、祝い事があればパーティーをしてあげる……そのような支え合いがあるからこそ、異境の地でもなんとか生きていける。

翻って日本はどうか。恵まれた福祉制度がある一方で、お互いに助け合うことはほとんどしない。親戚が困っていてもそっぽを向く。そうした態度がホームレスを生むのだ。

少し前に、年配の在日韓国人の方からこんなことを聞いた。

「昭和の時代には、在日のホームレスもいませんでした。日本人よりずっと貧しかったのに朝鮮人の集落の中で助け合っていた。大変な時代でしたが、そういう意味ではすごく懐かしいんです」

かつて彼が重度心身障害者の長男を持ち、さらに生活に困窮していた時、知人が善意で五年も長男を預かってくれたという。

日本社会の割れ目は、そんなコミュニティーの力によって埋められてきたのだろうし、今も埋められているのだろう。

プロフィル

いしい・こうた 1977年、東京生まれ。国内外の貧困、医療、戦争、災害、事件などをテーマに取材し、執筆活動を続ける。『アジアにこぼれた涙』(文春文庫)、『祈りの現場』(サンガ)など著書多数。近著に『砂漠の影絵』(光文社)、『「鬼畜」の家』(新潮社)がある。