利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(30) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

紛争と戦争の危険

でも、このような時は、新しい危機が生じやすい。心理的に追い詰められると、力に訴える行動が多くなりがちだからだ。

心配していた通り、政府は韓国に対して経済制裁をして対立を激化させた。主要国との外交が事実上ほとんど失敗したので、右翼的な嫌韓世論を梃子(てこ)に支持を集めようとしているのだろうか。実際にはこの政策は韓国のみならず、日本の経済にも悪影響を与えるだろう。

政府は経済統計の不正や粉飾を指弾され、野党から実質的賃金の再算出を5月に求められていたが、選挙後に、やはり2018年度にはそれが低下していたことが公表された。10月に消費税を上げると、経済的な停滞や後退は、より深刻な事態になることが危惧される。

また、アメリカがイランに対する有志連合を呼び掛けて日本にも参加を要請した。イランとの友好関係に基づいて政府はアメリカとの間を仲介しようとしたにもかかわらず、何らかの形で自衛隊を派遣することを検討している。国連決議がない以上、仮に有志連合が武力行使にまで至れば、国際法違反となるだろう。これが戦争を招けば、まさに安保法の議論の際に危惧された通りの事態が生じかねない。つまり、日本が攻められているわけではないのに、アメリカが主導する違法な戦争に日本が海外で参加するという事態だ。

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