利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(30) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

公共性の減退と希望の道

アメリカの国防長官が来日して有志連合について要請した日(8月7日)に、与党のホープと有名アナウンサーとの結婚という私的な出来事が、公的な場所たる首相官邸で発表された。ここには公私混同の疑いがある。このように政治権力は、さまざまな術策を用いて、重要な真実から目を逸(そ)らさせようとする。だからこそ、やはり現実を俯瞰(ふかん)的に正しく見て、正しく思うことが必要だ。

「あいちトリエンナーレ2019」の「表現の不自由展・その後」が公共的支援を受けているにもかかわらず、日韓紛争に関わる展示物が政府など公的機関の考え方に反するという右翼的な批判や脅迫を受けたため、すぐに中止になった。公的機関の意向が公共的な観点から正しいとは限らないから、これは、表現の自由が縮小しかかっていることを端的に象徴する事件だ。

戦争が迫るときには必ず自由が抑圧される。この事件を見て、迫りつつある事態を直視するのが知恵だろう。前述した公私混同と同じように、政治において本来の公共性が減退しており、それが危険を引き起こしているのだ。

このような暗澹(あんたん)たる状況にもかかわらず、人々の知恵と努力によって別の道を切り開く可能性を参議院選挙は垣間見せてくれた。それを本格的に実現するために、政治的にはどのようなことが注視されるべきだろうか。

まず、野党が辛勝できたのは、東日本などにおける地方の一人区で、野党統一候補が善戦したからだ。この結果に促されて、野党間で国会における統一会派を形成する動きが早速生じている。

次に、野党第一党たる立憲民主党の改選議席がほぼ倍増したのは、立憲主義的理念の影響力が国会で増えることを意味するが、比例区では前回の参院選より得票を大きく減らした。ブームが去ったのは、なぜだろうか。他方で、れいわ新選組などの新党が議席を得て、注目されている。今までの政党にはない主張が人々を引きつけたのだ。

つまり、令和の時代にふさわしい新しい政治や社会の理念が求められている。これこそが、超越的な視点から次に考えるべき大きな課題なのである。

プロフィル

こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。東京大学法学部卒。千葉大学大学院人文社会学研究科教授で、専門は政治哲学、公共哲学、比較政治。米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授と親交があり、NHK「ハーバード白熱教室」の解説を務めた。日本での「対話型講義」の第一人者として知られる。著書に『神社と政治』(角川新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう』(文春新書)など。

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