『利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割』(24) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

画・国井 節

平和への願いが込められた年号

昨年末に、幕末・明治の時代を考えた。大正、昭和を経て、今は平成である。今上天皇が今年の4月30日で退位される予定なので、平成時代は1989年1月8日に始まって、20世紀末から21世紀初頭にわたり、30年113日間で終了することになる。この時代はどのようなものだっただろうか。

この年号の由来は、時の小渕首相が年号を発表した際に、『史記』の「内平外成(内平らかに外成る)」と『書経(偽古文尚書)』の「地平天成(地平らかに天成る)」にあると明かされた。いずれも儒教の文献で「国の内外、天地とも平和が達成される」という意味である。国内的・国際的な平和への希求がそこに込められていたことは間違いない。

当時はソ連でゴルバチョフ共産党書記長(当時)によるペレストロイカが進展しており、平成元年の1989年には、東西ドイツにおけるベルリンの壁が崩壊し、東欧革命による民主化が起こって、12月には米ソ首脳のマルタ会談が行われて44年間続いた東西冷戦が終了した。その共同声明でゴルバチョフは「世界は一つの時代を克服し、新たな時代へ向かっている。われわれは長く、平和に満ちた時代を歩き始めた」と述べた。まさに世界中で平和への期待が漲(みなぎ)った。

戦後の最大の危険は東西冷戦であり、米ソ核戦争によって地球が滅亡するという悪夢が真剣に危惧されていた。それがなくなったのだから、世の中に楽観的な明るいムードが漂ったのも当然だ。言論界でも、自由民主主義の勝利によって大戦争の危険はなくなり、歴史的大変動はもはや終焉(しゅうえん)したという楽観論が注目を集めた。平成という年号は、地球全体における平和実現という夢の高まりを背景にしていたのだ。

【次ページ:実際はどうだったか?】