おもかげを探して どんど晴れ(9) 文・画 笹原留似子(おもかげ復元師)

大切な方を亡くされた方々は、抱えた想い出を一つ一つ考えれば考えるほど迷います。でも、迷い、問うことを続けた人にしか持ち得ない、心の財産があると私は思います。迷いや問い掛けが生じる背景には、故人を忘れることなく大事にして、姿はなくなってもその存在を守りたいという信念があり、やがて、亡き人と共に生きる覚悟を決めた時、迷いから抜け、財産を手にします。

いったん迷いの世界に身を置いて、死という体験を受けとめ、そこから生きる道を歩き出したご遺族は、優しく、とても強くなっています。財産とは、もしかしたら、マヨイガに行って富の一つである信心を持ち帰って来られたことかもしれないなと、ご遺族の皆さんとお話をしながら感じることも多くあります。

信仰心は、物事に触れれば触れるほど深くなるものだと思います。それは人生の壁に直面した時に抱える悲嘆に対する予防でもあり、治療でもあり、結果として暗雲に一筋の光が差し、気がつくと晴天になっている、そういう導きでもあります。マヨイガは、信じる人しかたどり着けない場所だといわれています。信仰心を持っている人と持っていない人の生き方は、このような例を取っても随分と違ってくるものではないかと思うのです。

マヨイガは豪邸と伝えられていますが、それがもし、神仏の胸の中だとしたらまたとない「豪邸」と言えるでしょう。神仏の胸に抱かれて安心できる環境の中に身を置けば、人生の財産である亡き人との関係が戻ってきます。死を迎えても、関係性は何も変わらない。同じではないかとの答えにたどり着けば、かけがえのない財産を持ち続けていることに気づくのです。

風習やむかし話は私たちにいろいろなことを教えてくれます。生活の中の一つ一つと照らし合わせて生きていくために存在し、語り継がれているものだと思います。

※タイトルにある「どんど晴れ」とは、どんなに空に暗雲が立ち込めても、そこには必ず一筋の光がさし、その光が少しずつ広がって、やがて真っ青な晴天になるんだよ、という意味です

プロフィル

ささはら・るいこ 1972年、北海道生まれ。株式会社「桜」代表取締役。これまでに復元納棺師として多くの人々を見送ってきた。全国で「いのちの授業」や技術講習会の講師としても活躍中。「シチズン・オブ・ザ・イヤー」、社会貢献支援財団社会貢献賞などを受賞。著書に『おもかげ復元師』『おもかげ復元師の震災絵日記』(共にポプラ社)など。