それでいいんだよ わたしも、あなたも(2) 文・小倉広(経営コンサルタント)

「正の注目」が上手にできません

私の専門分野であるアドラー心理学では、勇気づけの基本として「正の注目」を大切にしています。

わかりやすく言うならば、相手の「プラス(正)」を探し、自分自身も「プラス(正)」の感情で接することです。具体的には、テストで70点を取った子どもに対して

「あら、70点。頑張ったね。ここもできているし、こんなに難しいところもできているのね。前の日も勉強を頑張っていたからね。あなたがうれしそうでお母さんもうれしいわ」と接するのです。

これとは逆に「負の注目」をすると“勇気くじき”になります。「なんだ、30点も間違ったのね。ここも、あそこも間違って。努力が足りないのよ。だから、いつも言っているでしょう。もっと勉強しなさいって。あんたは本当に根性が足りないんだから」。

この「正の注目」は、テストの点数が70点だからできるのではありません。たとえ、子どもが40点を取ろうが、10点を取ろうが、0点であっても「正の注目」はできるのです。

「あら0点。隠さずにお母さんにちゃんと見せてくれるのね。正直なあなたがお母さんは好きよ。それに、逃げ出さずにちゃんとテストを受けたのは勇気があると思うわ」。このように、良い面を見つけ出し、自分自身も心の底からプラスの感情(喜び、感謝、希望、満足)で注目をするのです。

「正の注目」は非常にシンプルですが、実行は簡単ではありません。なぜならば、ほとんどの人は自分自身が子どもの時に、親から「負の注目」をされて育ち、自分自身も他者に対して常に「負の注目」をして暮らしているからです。

ですから、講演などでこの考え方をお伝えすると、多くの人は、このような考え方があること自体に驚きます。そして「難しいけれどもチャレンジしたい」とおっしゃいます。私はその決断に心から拍手を送りたいと思います。

そんな「チャレンジ中」の受講者さんと、後日お会いすると、多くの方がこうおっしゃいます。

「小倉さん、『正の注目』にチャレンジ中です。でも、ついつい、『負の注目』をしちゃうんです。私ってダメですね」

私はいつも笑ってこう答えます。

「『正の注目』にチャレンジされているのですね。その勇気に敬服します。一つだけ助言してもいいですか。『正の注目』ができていない自分を責めないでください。それ自体が、自分自身への『負の注目』になっちゃいますからね。できていなくても、頑張っている自分、チャレンジしている自分に『正の注目』をしてくださいね」

できていても、できていなくても。失敗しても。忘れていても。いつでも、私もあなたもそれでいい。それが「正の注目」なのです。

プロフィル

おぐら・ひろし 小倉広事務所代表取締役。経営コンサルタント、アドラー派の心理カウンセラーであり、現在、一般社団法人「人間塾」塾長も務める。青山学院大学卒業後、リクルートに入社し、その後、ソースネクスト常務などを経て現職。コンサルタントとしての長年の経験を基に、「コンセンサスビルディング」の技術を確立した。また、悩み深きビジネスパーソンを支えるメッセージをさまざまなメディアを通じて発信し続けている。『33歳からのルール』(明日香出版社)、『比べない生き方』(KKベストセラーズ)など多くの著書があり、近著に『アルフレッド・アドラー 一瞬で自分が変わる 100の言葉』(ダイヤモンド社)。