利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(13) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)
画・国井 節
もっとも大事な政治的対話
前回は、対話の大事さやその面白さについて書いた。そのもっとも重要なテーマの一つが、政治に関する対話だ。
安倍首相は2020年までに憲法改正を行うという目標を公言し、今年から来年くらいに憲法改正を国会で発議しようとしている。今、政治情勢が急変しつつあるので思うようにはいかないかもしれないが、国民投票となれば、有権者の一人ひとりが賛否を投じることになる。
その時にはしっかりと考えた上で投票することが、主権者たる国民一人ひとりの公共的な責務である。これには国家の命運がかかってくるからだ。だからこそ、この時だけは国会議員が決めるのではなく、直接に一人ひとりが投票するように憲法で定められているのである。
なぜ、今、このような憲法改定か?
なぜ、政府はこの時期に憲法改正を行おうと考えたのだろうか。自民党は長年憲法改正を目標として挙げていたし、2012年には党の憲法改正草案を発表している。しかし今、憲法改正を実行しようとしているのは、現実に発議を行うことがリアリティーを持つようになったからだ。憲法改正に積極的とされている政党(自民党と公明党、日本維新の会、希望の党)が衆参両院で3分の2以上の議席を持っていて、発議が可能である。しかも、国政選挙が来年の参議院選挙まではないので、強引に採決することができるわけだ。
自民党は、「憲法9条」「緊急事態条項」「参議院の合区の解消」「教育の充実化」という4項目を検討している。内容だけを見ると、なぜこの4項目に絞っているのか、分かりにくいだろう。
謎解きをすれば、理由は簡単だ。発議をするためには公明党や日本維新の会が賛成することが必要だ。自民党憲法改正草案のままでは、これらの政党は賛成しない。かねてから公明党は加憲を提案してきた。日本維新の会は教育無償化を憲法改正の柱の一つとして挙げている。これらに対応するのが「憲法9条」と「教育の充実化」なのだ。さらに「参議院の合区の解消」は、自民党内で合区によって議席を失う議員たちが強く要求している。
そう考えると、発議を可能にするためにこの4項目にしたことが分かる。そうまでして行いたいのは、安倍首相やその積極的な支持者たちは今の民主主義的な平和憲法を変えることを願い続けているからだ。それが「憲法9条」や「緊急事態条項」に現れている。