利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(13) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

主権行使のチャンスと宗教者への期待

これは、陰鬱(いんうつ)な未来だ。だからこそ、今という時期は大事なのだ。危機感は大切だが、希望はある。通常の国政では人々は議員の選出によってしか主権を行使できない。ところが憲法改正においてのみは、人々が直接意思を表明する機会が認められている。これは、日本史上初の直接の主権行使のチャンスでもあるのだ。

自民党が提案する憲法改正案が否決されれば、直接の民主主義によって、形骸化してしまった平和主義を再確立することができる。つまり、民主主義と平和主義をよみがえらせることが可能になるのだ。

日本ではこれまで、近代の市民革命がなかったから、民主主義が脆弱(ぜいじゃく)だった。ところが、憲法改正の国民投票によってこれらが再生すれば、それは日本史上初の“民主主義的市民革命”になるかもしれない。それは、主権者が政治の運命を決する偉大な歴史的瞬間となるだろう。

英米の市民革命においては、キリスト者が大きな役割を果たした。日本でそのような劇的な出来事が起こる際には、仏教も大事な役割を果たすに違いない。仏教は平和的な宗教として知られているからだ。主権者が直接その意思を表明する暁には、民主主義や平和主義の理想を掲げる宗教が、歴史的役割を果たすことを期待したい。

プロフィル

こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。東京大学法学部卒。千葉大学大学院人文社会学研究科教授で、専門は政治哲学、公共哲学、比較政治。米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授と親交があり、NHK「ハーバード白熱教室」の解説を務めた。日本での「対話型講義」の第一人者として知られる。著書に『神社と政治』(角川新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう』(文春新書)など。

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