利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(9) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

政治における精神性

今回の選挙では、「国難」というセンセーショナルな言葉に対応して野党に激変が起こり、大きな政治的ドラマが生じた。その中で人間性が現れた。「驕り」対「信念を貫く純粋な公共的行動」――この相違が結果に大きな影響を生んだのだろう。政策の内容だけではなく、このような倫理的要素が政治にも反映することを忘れてはならない。

加計学園問題の文書を本物と証言した文部科学省前次官には、保守的新聞でスキャンダルが報じられたが、倫理的に問題はないことが判明した。逆に誠実な人柄が印象付けられた人も多かっただろう。この人は若いころから、禅をはじめとして仏教の影響を受けているという。その精神性が、省庁の前トップとしては異例の行動に現れているように思える。

政治にあまり関心がない人には、時の政治的テーマや政策の当否は分かりにくいかもしれない。戦争に向かっているという政権への批判がある一方で、与党は平和のためにとか、国難を回避するためにというような説明をしているから、言葉だけを聞くとどちらが正しいか迷う人もいるだろう。

そのような時には態度と行動を見るといい。弁舌巧みに人をだます政治家は少なくないが、態度や行動には人間性が現れざるを得ないからだ。特に今回の選挙のような激動の時には、それが明確に現れることが多い。宗教や倫理では、嘘やルール違反や驕り・傲慢(ごうまん)はもちろん悪しきことであり、正直・誠実や規則遵守(じゅんしゅ)、謙虚さが善いことだ。このように宗教性や精神性と政治は関連している。

選挙結果を受けて、武力衝突や民主主義の後退への懸念が募る。戦争を回避し、議会政治と民主主義を復活させるためには、さらに祈りと対話と行動が必要だ。本当に武力衝突が起こらないように祈らざるを得ないし、憲法改正については国民一人ひとりが真剣に対話し、議論を行うことが不可欠だ。国会があまり開かれなくなっても、自分自身のいる場所で、戦争の問題や民主主義、違憲について対話を広げていく必要がある。公共的な祈りと対話と行動が、引き続き大きく展開していくことを願いたい。

プロフィル

こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。東京大学法学部卒。千葉大学大学院人文社会学研究科教授で、専門は政治哲学、公共哲学、比較政治。米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授と親交があり、NHK「ハーバード白熱教室」の解説を務めた。日本での「対話型講義」の第一人者として知られる。著書に『神社と政治』(角川新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう』(文春新書)など。

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