幸せのヒントがここに――仏典の中の女性たち(10) 文・画 天野和公(みんなの寺副住職)
天界へ帰った女性――パティプージカー
パティプージカーは、コーサラ国サーヴァッティに暮らした主婦です。16歳で結婚し、4人の息子を生みました。仏教を深く信仰し、僧団への食事のお布施を習慣としていました。
彼女が他の女性とたった一つ違っていたこと。それは、前世の記憶を持っていたことです。
パティプージカーは人間界に生まれる前は三十三天という天界に住む天女で、マーラバーリー天人の大勢の妻のうちの一人でした。
ある時、夫と妻たちは森へ遊びに行きました。木に登って枝から花を落としたり、その花で夫を飾ったりして楽しんでいたところ、彼女は誤って木から落下し、体が消えて死んでしまいます。
人間に転生した彼女の唯一の願いは、もう一度天界に生まれ変わることでした。
お布施をするたびに、「これが夫の元に転生するための功徳になりますように」と願ったため、いつしか周りから「パティプージカー」(夫を供養する者)と呼ばれるようになりました。
ある日の夜、彼女は病気で急逝し、望み通り天界に生まれ変わりました。
ところが人間界と天界では時間の流れが違いました。人間界での百年は天界のわずか一日に相当するため、一行はまだ森で遊んでいて、彼女が亡くなったことにすら誰も気づいていなかったのです。
パティプージカーの姿を見つけたマーラバーリーはこう言いました。「きみ、一体どこに行っていたの。午前中の間、姿が見えなかったようだけど」。彼女がこれまでの経緯を詳しく話すと、みんなはたいへん驚きました。「人間とはなんと寿命が短いものなのだろう。そんなに短い一生なら、遊んだり怠けたりしている暇など全くないはずだ」。