幸せのヒントがここに――仏典の中の女性たち(7) 文・画 天野和公(みんなの寺副住職)
お釈迦さまを引き留めた少女――プンナー
コーサラ国のアナータピンディカ長者の使用人に、女の子が生まれました。その世帯でちょうど100番目に生まれた子供だったので、プンナー(満ち足りる)と名付けられました。
成長したプンナーの日課は、毎朝暑い日も寒い日も、川に水汲(く)みに行くこと。こごえるようなある冬の朝、彼女は一人の修行者が川で沐浴(もくよく)をしているのを見かけました。
「どうしてこんな冷たい水の中に入っておられるのですか」。ソッティヤという修行者は誇らしげにこう答えました。「私は毎朝この川で体を洗い、自らの罪を洗い清めているのだ」。プンナーは目をぱちくりさせて驚きました。「誰がそんなことを言ったのですか? 水を浴びることで清められるのなら、ここに住むカエルやカメたちは、みんな天界に生まれ変わるのですか。どんな罪を犯した極悪人でも、沐浴すれば罪が消えるのですか」。修行者は返す言葉に詰まり、考えを改めるに至りました。
このように、プンナーは自分の頭でしっかりと考え、誰に対しても物おじせずに発言ができる女性でした。
さてアナータピンディカ長者の家があるサーヴァッティの都には、長者が建立した祇園精舎(お寺)がありました。お釈迦さまやお弟子たちが多数滞在できる大規模な精舎でしたが、一行がずっと留まることはありません。僧団は布教のために各地を転々とされるのが習わしだったからです。
ある年も僧団はサーヴァッティを出発しようとしていました。もちろん長者をはじめ町の人々は口々に引き留めましたが、お釈迦さまは「もう決めたことですから」と申し出を断りました。