法華経のこころ(11)

人間の生き方の究極の境地が示された法華三部経――。経典に記された一節を挙げ、記者の心に思い浮かんだ自らの体験、気づき、また社会事象などを紹介する。今回は、「薬王菩薩本事品」と「如来寿量品」から。

百福荘厳(しょうごん)の臂(ひじ)を然(とも)すこと七万二千歳(ざい)にして以(もっ)て供養す(薬王菩薩本事品)

「一切衆生憙見菩薩は徳に包まれた自らの腕を七万二千年も燃やし続け、仏を供養した」。自己犠牲の尊さを導く一節。

「おつかさんは、ぼくをゆるして下さるだらうか」。友人を救うために溺死したカムパネルラは、銀河鉄道の中でそうつぶやく。

自己犠牲は尊い、というだけでは済まされない問題がそこにある。カムパネルラの言葉は、その意味ではリアルだ。人間は自分の生命の大切さを知っているからこそ、いざという時、自分を守るためにエゴイストにもなる。それを責めることができるだろうか――。

しかし、そのすぐあとにカムパネルラはこう言う。「ほんたふにいいことをしたら、いちばん幸ひなんだね。だから、おつかさんは、ぼくをゆるして下さると思ふ」。自らの意思で、友を救わずにいられなかったカムパネルラに、深い信仰を見る。

宮沢賢治の名作『銀河鉄道の夜』には、カムパネルラに限らず、人の幸せのためには自らの生命も惜しまない菩薩たちの世界が随所に散りばめられている。
(T)

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