法華経のこころ(9)

微渧(みたい)先ず堕ちて以て欲塵(よくじん)を淹(ひた)し(無量義経徳行品)

「小さな水のしずくでも、土の上に落ちれば、そこだけは確実に塵(ちり)を立てません。このように、日常のほんのささいな事柄から教えを行じていくことが、救われの第一歩となるのです」。仏法は、とにもかくにも実践によって花開く。

A子さん(60)が教会道場を訪れたのは昨年春だった。教会長室に通されるなり、自分の不幸を一気にまくしたてた。夫との不仲、他人行儀な嫁、借金苦から行方不明になった息子。さらにA子さんの手は湿疹で赤く腫れ上がっていた。「何で私ばかりこんな目に……」。怒ったような声が、隣室にまで響いた。

2時間ほど、教会長はその話を聞いていた。そして言った。「私と二つの約束をしてください。それを守れば、あなたは必ず救われますよ」。一つは、今夜から、ご主人と別々に寝ていたのをやめて、一緒に寝ること。家族の言うことに、何事も「ハイ」と従うこと。A子さんは、キツネにつままれたような顔をして帰っていった。

3週間後、A子さんが再び教会長室を訪れた。「夫が優しくなって。そうしたら嫁までも。息子は帰って来るし、湿疹も消えました」。信じられないようなホントの話。“焼け石に水”などと絶望ばかりしていては救われないのを、改めて思い知らされた気がした。
(J)

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