法華経のこころ(2)

人間の生き方の究極の境地が示された法華三部経――。経典に記された一節を挙げ、それにまつわる社会事象や、それぞれの心に思い浮かんだ体験、気づきを紹介する。

我深く汝等を敬う、敢て軽慢せず (常不軽菩薩品)

「わたしはあなたがたを敬います。決して軽んじたり、見下げたりはしません」。この後「所以は何ん、汝等皆菩薩の道を行じて、当に作仏することを得べしと」(あなたがたはみな菩薩の道を行じて、必ず仏になる方々であるからです)という文が続く。法華経の根本である『一切衆生悉有仏性』を説き示したもので、日蓮はこれを略法華経と名付けた。

核兵器禁止条約の署名式が国連本部で行われた。ひとたび核兵器が使われれば、地球が破滅することは承知のはずなのに、ここ数十年、核軍縮は停滞したままだった。

背景には、軍事バランスの均衡によって、戦争を防止するという「抑止論」がある。しかし、歴史を振り返って分かるように、抑止論はますます軍拡をエスカレートさせ、経済困窮という事態をも招いてきた。軍拡が続けば、人類は必ず生存の危機に陥り、結局、自らの首を絞めかねない。

私たちが選択すべき最も賢明な道は、戦争そのものを放棄する軍備撤廃である。それには、民族的、思想的、宗教的対立、相違を超えた信頼回復を図ることが先決だ。

相互に信じ合い、敬い合えば戦争は起こるはずがないと、この句は教えてくれる。
(S)

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