利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(55) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

画・国井 節

“コロナ敗戦”の政治的因果

東京の感染者数は、東京五輪開催中から急上昇して医療崩壊が生じ、ついに日本の感染状況は世界の中でも有数の水準に達してしまった。自宅などで死亡した感染者も当然増え、8月には全国で250人、都内だけで112人確認された(朝日新聞=9月13日、TBSニュース=9月14日)。

生命を守るのは、国家存立の目的そのものだから、必要な医療を提供できなくなる事態は国家の危機に他ならない。この結果、菅政権の支持率は下降を続けて、自民党総裁選・総選挙の順序を操作したり、党人事を行ったりして延命を図ろうとしたが、万策尽きて首相は辞任を表明した。五輪強行によって支持率を上昇させて総選挙で勝利しようという目論見(もくろみ)が完全に破綻して、コロナ対応の失敗によって無辜(むこ)の民を死に追いやったのだから、これはまさしく因果応報だ。連載第51回(5月17日)などで論じたとおり、悪しき政策の結果、悪しき結果が国民と政権に生じたのである。

この犠牲となった死者たちを悼むこと、このような事態をもたらした責任を反省して新生を決意することが、次なる政治の出発点でなければならない。

真理歪曲の結果

ところが、自民党総裁選のニュースでは、このような反省が報じられていない。コロナ対策に専念するという名目で首相は辞任を表明したにもかかわらず、無為無策を続けており、第5波は沈静化しつつあるものの、次の波への準備も何もしていない。この過程で正しく見なければならないのは、何がこのような陰鬱(いんうつ)な現実をもたらしたのかということだ。

現首相は前政権の官房長官として影響力を増して権力を掌握したのだから、この二代の政権の所業を大局的に振り返る必要がある。繰り返されたデータ改竄(かいざん)や隠蔽(いんぺい)、嘘(うそ)や忖度(そんたく)――これらは、ことごとく真理を歪(ゆが)める虚偽であり、すなわち道徳的に悪しき行為だ。現政権の発足直後に問題化した学術会議の任命拒否問題も、学問的な卓越性を蔑(ないがし)ろにした点で、真理の歪曲(わいきょく)と直結している。

権力維持のために真理を損なおうとする姿勢が、コロナ対応においては科学的知見の軽視として現れた。そもそも、日本のコロナ関連データは正確ではなく、かつ東京都の重症者基準のように、独自基準や基準変更が行われているから、正確な分析が困難だ。それでも、データを根拠として、五輪前には、医療関係者や優れた科学者たちの多くが感染爆発を憂えて、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会関係者までもが繰り返し警告していた。それらに耳を貸さずに、政権維持の思惑を優先させたために、コロナ敗戦の死者を生み出したわけだ。

従って、次の政権を考える際の最大の基準は、この因果応報を直視し、そのような事態を繰り返さないように、倫理的な汚濁を払拭(ふっしょく)して道義を回復し、学問的・科学的真理を尊重することでなければならない。これ以上の犠牲を出さないために、この基準によって政治の浄化と再建を目指すことが急務である。

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