利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(55) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

「公共善の政治」の一丁目一番地は?

そのための方策は、優れたコロナ対応をした諸外国の例から、すでに明確だ――たとえばワクチン接種だけではなく、大量検査・隔離を可能にするために、今まで五輪などに使われたような資金をこの問題に集中的に投入して、いつでも誰でもすぐに無償で検査を受けられるようにする。そのために公的検査機関のPCR検査方法を刷新し(リアルタイムPCR法や全自動PCR装置)、医師会・病院・民間検査会社にも委託する。集中的大量検査によって感染拡大地域に早期の対応を行う。検疫を強化する。本当に必要な場合には、緊急事態宣言の内容強化やロックダウン(都市封鎖)の実施も含めて真剣な方策をとり、外出・営業の自粛を人々に求める際には、それに対応する金銭的補償を行うという方針を明示する。医療崩壊が再度生じないように、医療施設を増強するとともに、五輪施設の転用などによって、万一の場合の臨時医療施設を用意しておく。さらにはポジティブ心理学などの学術的な知見も生かした公衆衛生の知識普及(高機能マスク・物理的距離の維持・ポジティブ感情・睡眠などの効果)も政策的課題である。

既存の組織や勢力の抵抗があるならば、それを排して改革を断行しようとする政治的決断力と実行力に、人々は希望を託すだろう。リベラリズムは自由の擁護において貴重だが、真の公共的目的のために必要な権力行使を躊躇(ためら)うという弱点を伴うことがありうる。しかし、人々の生命を守るという公共善のためには、自由を尊重しつつも、凜然(りんぜん)として公権力を行使する姿勢を宣言すべきだ。

そのためにも、学問的・科学的真理に敬意を表し、三顧の礼をとってでも優れた医療関係者や有識者を招き、謙虚に助言を仰ぐことが肝要だ。そういった人々の協力を求めて公共的に医療や公衆衛生の衆知を結集し、「公共善の政治」のビジョンを明確にすることによって、政治と国家が再生する道が開かれることを願ってやまない。

プロフィル

こばやし・まさや 1963年、東京生まれ。東京大学法学部卒。千葉大学大学院人文社会学研究科教授で、専門は政治哲学、公共哲学、比較政治。米・ハーバード大学のマイケル・サンデル教授と親交があり、NHK「ハーバード白熱教室」の解説を務めた。日本での「対話型講義」の第一人者として知られる。著書に『神社と政治』(角川新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう』(文春新書)など。

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