共生へ――現代に伝える神道のこころ(2) 写真・文 藤本頼生(國學院大學神道文化学部准教授)

八坂神社(京都市)の境内にある疫神社。毎年7月31日に行われる夏越祭(なごしさい)では、参拝者が鳥居に設けられる大きな茅の輪をくぐり、厄をはらう

日本神話が伝える豊かな世界観は、今を生きる私たちへのメッセージ

『古事記』や『日本書紀』といえば、まさに日本神話の代名詞であり、神道の代表的古典ともいうべき書物である。『古事記』は、和銅五(七一二)年の撰上(せんじょう)から本年で千三百九年目、『日本書紀』も昨年(二〇二〇年)が養老四(七二〇)年の撰上から千三百年という佳節であった。

昨年一月末からの新型コロナウイルスの国内における感染拡大にて、にわかに注目されてきたところであるが、我が国は古代から疫病の流行に悩まされてきた。古くは崇神(すじん)天皇の御代に、大物主大神(おおものぬしのおおかみ)を大田田根子(おおたたねこ)に祀(まつ)らせたことにより疫病を鎮めたと『日本書紀』に記されている。

我が国では疫病が流行するたび、神仏に疫病退散の祈りを捧げ、その御加護を頂いてきたことが記紀以外の書物、他の六国史(りっこくし)などにも記されている。近年では神道史学の岡田莊司氏や小林宣彦氏らの研究によって、学問的にも天変地異や疫病など古代の災厄と神々の祟(たた)り、それに伴う神祇祭祀(じんぎさいし)との関連性が明らかにされてきているところでもある。そこで今回は、日本神話が伝える世界観を通じて、神道が今を生きる私たちへのメッセージであることを、少し紹介したい。

『古事記』や『日本書紀』、あるいは『風土記』や『古語拾遺(こごしゅうい)』などに残された神話の世界からは、唯一絶対的な神の存在や全知全能の神の姿は見られない。例えば、『古事記』には、天照大御神(あまてらすおおみかみ)が弟神の須佐之男命(すさのおのみこと)を懸命に信じようとして、共に贖物(あがもの)を出し合って誓約(うけい)を行う姿や、須佐之男命のように母神に会いたいと地上世界を干ばつの危機にさらすほど泣きじゃくる姿、天照大御神のように、天岩戸(あまのいわと)に隠れて引き籠(こも)り、これを高天原(たかまのはら)の神々の知恵と創意工夫で岩戸から取り戻す姿が表現されている。

さらに、大国主神(おおくにぬしのかみ)のように八十神(やそがみ)に虐(しいた)げられながらも、皮を剝(は)がれ困っている白兎に病を癒やすための正しい治療法を授ける姿、同じく大国主神が須佐之男命から根(ね)の堅洲国(かたすくに)で何度も試練の壁を与えられ、失敗してもめげずに問題に立ち向かう姿、須佐之男命のように高天原で悪事を働いて追放されてしまってもその後、出雲の河上で八岐大蛇(やまたのおろち)を退治し、困った人々を助けるスーパーヒーローへと進化する姿など、喜怒哀楽を包み隠さず表に出す、極めて人間的な神々の様子が生き生きと描かれているのである。

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